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第41回 wishing
俺は眠かった。俺は見たことの無い道路の上に座っていた。下は冷たかった。俺はどうしようもなく眠かった。身体が氷のように固まり、何一つ動きそうになかった。試しに右手に力を入れてみたが反応はなかった。まぶたが落ちてきた。俺はかろうじてこらえた。眠っても良かったが、ここがどこなのか、自分がどこにいるのか、それを把握したかった。俺の居場所は無くてよかった。ただどこかを知りたいだけだった。左手を動かそうと試みた。無駄だった。しかし、うっすらと開いたまぶたの向こうにかすかに手のひらが見えた。俺は自分の手でありながら、リモートコントロールのように手を動かそうとしていた。念じた。なんとなく、手の指が動いた気がした。周りに人はいなかった。道は相変わらず冷たかった。俺は声を出そうとしたが声は出なかった。息を吐いてみた。白かった。魂が抜けた気がした。眼球を上に動かしてみた。少しだけ空が見えた。空はグレーににごっていた。上を見ると一瞬まぶたが重くなった。一度ゆっくりと眼を閉じて、そしてまた開いた。場所も時間もわからなかった。何も聞こえなかった。世界が終わってしまったようだった。幸い気分は悪くなかった。このまま目を閉じれば心地よい眠りにつけそうだった。俺はただなんとなく、今まで俺がやってきたことを思い出していた。いい思い出はなかった。いつも思い通りにいかなかった。こうなればよい、と思う正反対のことが起きた。人はみな、俺が言って欲しい言葉の逆を言った。俺が放った言葉は彼らにとってどうだったのだろう?尻に氷を敷いているようだった。暖かいものが欲しかった。俺はいつも何かを望んでいた。そして何も手に入れることが出来なかった。俺に許されるのは想像することだけだった。やがてどこからともなく暖かい空気が流れ込んでくることを想像した。それはやがて俺を包みこみ、すべての氷を溶かしてくれるだろう。そして俺は立ち上がる。自分の足で。尻についた汚れを払い落とし、襟をただし、そしてしばらく空を見上げ、目線を落としてどちらに向かうか少し迷い、そして第一歩を踏み出すのだ。それは大きな一歩になるだろう。俺の人生を決める一歩になるだろう。俺は想像した。俺の未来のために。徐々に意識がはっきりしてきた気がした。身体を包み込んでいた冷たい感触も少し変わってきた。あらゆるところから鈍痛を感じ始めた。俺はあわてて体を動かそうとしてみたが、ぴくりとも反応しなかった。鈍痛は激しくなり、何かが身体を貫くような痛みに襲われた。俺は思わずうずくまろうとした。身体が少しだけ動いた。何が起こったのかと、目を見開いたが痛みのために開けていられなかった。閉じる瞬間に、俺の目は、俺が道に座っていて、俺の周囲に赤い液体が一面に広がっている様子を捉える。血だ、とわかる。そして俺はようやく痛みを抱えながらも眠りにつく。祈ることも許されずに。(2007.12)
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