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第47回 Nylon Smile
こういう日は背中に入った金属板とボルトが痛む。こういう曇りの日には。痛みが始まると俺はこう思う。「俺は蝶になろうとしているんだ」と。実際、俺はそうしようとした。そして自分の背中に羽を植えつけようとした。実際に鳥の羽を気が遠くなるほどむしり、つなぎ合わせた。蝶のような模様を作ってな。その結果がこの有様だ。俺は蝶になれなかった。おびただしい血が飛び出しただけだった。俺の背中には縦に2本の長い縫合の後がある。俺は痛みが始まると、想像の中でその傷口から羽を生やす。進化には痛みが伴うものだ。何かを得たとして、そのために痛みがなかったとしたら、それはきっと何も得ていない。そういうもんだ。痛みはいつも数分で治まった。その間に俺は脳の中で羽を生やし、そして自由を得る。その間俺はほかの事を考えられなくなる。当たり前だ。蝶がさなぎから成虫になる時、他の事を考えられるか?破壊と創造、その2つだけだ。その2つだけが真実だ。
俺はとある人間から、とある人間をこの世から消去するよう依頼を受けていた。それが俺の仕事だった。俺が直接手を下す時もあるし、他の人間にやらせる時もある。どこにその境界線があるのか。それは依頼人の恨みの深さにある。他の人間にやらせる時は、ただ単にその人間がこの世の中から消えればいい場合だ。そうじゃない時は俺の出番となる。俺はすぐに殺さない。というかすぐに死なないような殺し方をする、と言った方が正しいだろう。何もなぶり殺しが好きなわけじゃない。俺は蝶を作りたいだけだ。両手両足を拘束し、うつぶせにし、そして背中を裂く。縦に2列。そしてそこに羽を植える。今までに成功したことはない。おそらく出血が問題だった。羽の固定方法もまだ改良の余地があるのかも知れない。依頼人は俺がこの手術を成功すると思っていないらしい。万が一成功したとしても、おそらくそれは死に値する苦痛を伴うことを知っているんだろう。実際それは死に値する苦痛だった。世界中の炎が背中に集めらる感覚。脳が思考を停止する、生きる営みを止める命令を出す寸前までいった。俺だけがそれを知っていた。今回の依頼は俺が直接手を下す種類のものだった。出来ればその相手が小柄であることを願っていた。もし成功した場合に俺の作った羽が映えるからだ。主役はあくまでも羽だった。蝶を蝶たらしめるのは羽だ。美しい羽だけが、魅惑し、威嚇し、隠蔽することができる。俺は自分で自分を虜にしたかった。そのためにはまだまだ実験を続けなければならない。俺が真の意味で美を手にいれ、苦痛から解き放たれる時のために。待ち合わせは明日。例の暗い部屋の中だった。 (2008.06)
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