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第51回 an honest man
今、まさに死を目の前にして思う。僕は競争に乗っからなかったはずだった。いや、乗れなかっただけかもしれない。いずれにしても、僕にしか歩めない人生を求めて歩いていたはずだった。自分の立ち位置をみんなの列からはずし、横目で眺めながらあるいているつもりだった。僕の歩む道に行き先がなくなっていたのに気づいたのは30歳を過ぎてからだった。いや、なくなっていたわけではない。結局みんなが並んでいた列とつながっていただけだった。僕はその列に並ぶことによって学べる多くのことを知らなかった。それでも構わなかった。しょうがなかった。そうだよね。いろんなことを教えてくれる人はみんな嘘つきだった。人に何か教えようとしても信用されなかった。昔はプラモデルをよく作った。周りのみんなより上手だった気がする。少なくともママはそう言ってくれた。他人より器用だった気がする。それゆえに他人より幸せな人生を歩めるような気がしていた。みんなとは違う列を歩んでいるつもりだった。何も変わらなかった。もっと早く言ってよ。自尊心と自意識だけが、身長2メートルの幼稚園児のように肥大化していた。これどうやったら縮められる?他人より2倍頭がよく、他人より2倍傷つきやすい僕。特別な存在。存在は特別でも出来ることは人並みだった。そうなの?それに気づいた時、どうすればいいの?今まで傷つけた人みんなにあやまればいい?それともそれは忘れてしまおうか。本当の意味での競争を知らなかった。みんなが競争していることすらしらなかった。きっと自分は病気で死ぬと思っていたけれど、まさか自殺とは思わなかった。みんな月にいくらぐらい稼いでいるの?何をどうやって生きているの?その先に何があるの?満員電車に乗っている人はなぜみんなしゃべらないの?子供の泣き声はなぜあんなにうるさいの?OK。危ない。気をつけてください。5年後を見ていてください。ママは動かなくなったので自分で全部やります。自分がよければいいんだよね。そうやって、みんなそれぞれ自分がよければ、結局みんな幸せだよね。死に方いろいろ。死んでも明日は来る?携帯は鳴る?拡散方程式の数値を計算せよ。その数字だけの目玉を食べよ。すべて電子のせいだよね。狂ったふりをしても人は生き返らない。でも罪は軽くなるかな。今まで傷つけた人をどうやって探し出せばいいんだろう。前だけ見て、後ろを見ないようにしよう。まだ僕は大丈夫。最初はみんな同じだったはずなのに。最初はみんな。どうか他人から愛されますように。どうかすべての痛みや苦痛から解放され ますように。(2008.10)
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