第五十三回 もったいない血

朝九時に電話が鳴る。母親からである。
朝とは言え自分にとっては夜の様なもので、決して気分は良くない。夕方から深夜まで仕事をして、それから色々とだらだらやって明け方に寝る、という生活をもう五年以上している。つまり午前中は大体、毎日寝ているのである。起こされたくない。
母は、はしゃぎ気味な声で急かす。楽しそうな、笑っている、馴染みのある声。のりのりである。のりのりで、急かす。
「6チャン、つけて!早く!はなまるカフェ!好きな娘出てるよ!この娘でしょ!?」
言われるままテレビをつけると、森迫永依ちゃんがニコニコしている。ちょっと見ない間に歯並びが自分の理想に極めて近くなっていて、ホワーンとした衝撃を受ける。連れのゲスト(凡庸な美少女系。名前忘れた)と共に、「じゃんけんで勝ったら相手の手の平を思いっきり叩く(回避及び防御不可)」という遊びを躊躇無くバチーンと披露し、薬丸からお決まりのヤレヤレ顔をされている。可愛い。可愛すぎる。受話器の向こうの母を、ほったらかしで見入ってる事に気付く。
「そうだ!この娘だ!電話ありがとう!」
相変わらず何かと母親に助けられている、中学生であった。
(たまにはこんな心暖まるエピソードも良かろう。とは言えまさに今が旬なネタなので、早めに切り上げます)
自分は就職や進学の為に実家を出て来たのではなく、只「ブームに乗らないパンクバンド」を組みたくて、只ひたすらにその実現の為、同志探しをすべく(育った街は二十歳直前で見限った。中学時代の友人は高校に上がった途端、どいつもこいつも皆一様に「モテたいだけ」の退屈なベリーエイプに変わり果て、あっという間に距離が出来上がった。自分だけがいつまでも中学生のままだった)、てっとり早く「多種多様な人に出会えそうな都市」に、手前勝手に引っ越してみてしまった人間(長男坊であるに関わらずに)である。ゆえに当然、仕送りめいた「生活補助金」なんぞをねだる気にはなれず、事実今まで一度として、そういう類を貰った事は無い(逆に貸してやった事は何度もある)。なのだが、それでも、母や母方の親戚達には随分と助けてもらって生きてきた。と、思っている。受けた影響も可也のデカさだと感じる。
自分の、昔から現在まで一貫して変わらない好き嫌いの内、「笑わせ好き」「無口嫌い」「ヤンキー嫌い」「歯みがき粉好き」「炭酸飲料嫌い」「小田急線沿線好き」「うる星やつら好き」「パタリロ好き」「特撮ヒーロー好き」「猫嫌い」等、とりあえず今思い出せるだけザッと挙げてみたが、少なくともこれら全ては、幼少期に彼女らの側で自然に擦り込まれた(と言うか影響を受けた)ものである。多分。
成長(と、呼ぶのはおこがましいけれど)の様すら、まるで倣っているかの如くである。
「決して譲れない・捨てられない」と言わんばかりに個々の趣味にいつまでも没頭し続けるあまりに、世間様の目を無視して実年齢に逆行したあまりに、その「オリジナルの快適さ」を何より大切に生きたあまりに、揃いも揃って見事に婚期を逃した親戚(母のイトコ)達。同じ一族の血を継ぎ、確実に彼ら彼女らと同じパターンに陥りつつあるのが、最近の自分である。そんな自分が可笑しくて、嬉しい。Kの一族(きむすめのKではなく母の旧姓)の一人として、この「位置」が誇らしい。
(勿論、そうして絶えてしまう一族・血であるので、自分を文字通りの「末裔」だと自覚したついでに、やはりいい気になりつつ、やはり残念な思いもあるのだが)

今週のおかず三品:
すき・すき・きらい・きらい・きらい・すき。/ミニモニ。
SO FAR AWAY/CAROLE KING
GOODBYE TO ROMANCE/OZZY OSBOURNE

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