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第八十三回 「のぞみ」は言った。「つまんないから帰る」
母親と祖母の誕生日(一日違い)を祝ってやりに、かつて暮らした家に帰る。贅沢にも特急列車に乗る。久し振りに乗ってみる。喫煙車両がなくなっている。列車を待つホームにも、一切、喫煙所がない(一時間に一本しか来ない列車のホームであるに関わらず、だ)。別段驚きはしないが、それなりにしょんぼりである。以前は両方とも吸えたのである。喫煙車両及び喫煙スペースを、「選択」する事は出来たのである。ところが今や当たり前の様に、選ばせてもくれない。「選ぶな!」と、只ひたすらに語気を荒げて、「吸うな!!」と。我々は従うのみである。高い金を払いながら、我慢するのみである。まぁ、いいだろう。それが嫌ならやめればいいのだ。金がなければ買わなけりゃいいんだし、そもそも俺は煙草なんぞに「依存」しきった病人ではない(俺は何にせよ「依存」というのが嫌いである。食後の一服が最高だ等とぬかして食べ終わり直後に場所はどこであれ必ずスパスパする様なトッチャンボーヤも、何だか生活臭いし生々しく病人の様にも見えるので、そうはなりなくないと思っている)。二・三時間ぐらい、三・四時間ぐらい、吸わずにいよう。少しの我慢…いや、この程度の事を「耐える」とは言わんのだ。決して言えない。言ってはならない。煙草なぞ、好きなもの聴いてる時・好きなもの見てる時・考えを巡らす時にだけ、「落ち着け、俺」と吸えればいいのだ。たまにで済むし、済ませるべきだ。
特急列車は、やはり速かった。ウトウトとしている内に親元に到着する。父親がいつもの様にはりきり(テンション自体はいつもの様に低い)、美味いそばを打ってやるぞと言い出す(無趣味な彼はつい最近公民館にて「手打ちそば講習」を受けたらしい)。母親は丸々と肥えており、どうしたのかと問うと(年末に片足を骨折したので動けずにしばらく食っちゃ寝していただけなのだろうから、本当はどうしたもこうしたもないのだが)、「えーちゃん(彼女がたまに使う一人称)今人生で一番重い!」と元気良く答える。祖母はと言うと、相変わらずフラダンス(技術と実績はプロ並)と「手話ダンス」という妙なものの講師で小遣いを稼いでおり、相変わらず人の部屋(我々兄弟の部屋だった所)と廊下を荷物置きにしており(しかもその荷物の大半は「何着もの似た様なハワイアンドレス」と「もう着ない私服」である。どうやら彼女は衣類を捨てられないタチらしい)、相変わらず自分の部屋では悠々と猫を飼っているのだった。 何度も言う様に、俺は猫が嫌いである(当コラム第四十四回参照)。アレルギーすら持っているので猫そのものは勿論、猫浸りの生活をしている人間の衣類に接するだけでも、目は充血し鼻水くしゃみが止まらない。祖母の部屋の猫の群れ(最高で七匹いたそれはとっくに全滅したが、現在は第二世代が二匹いる)も、触った事などなかった。が、今回祖母がその猫二匹を抱いて自分の部屋の外へ連れて現れ、更に!俺が肘をついてくつろいでいる布団の上にポーンと放してみせた。勿論俺はたじろいだがしかし、もっと驚いたのはその後だ。その猫二匹の内一匹は、踏み潰された様に真っ平でむすくれた顔をしたいわゆる「ブス猫」で、毛むくじゃらのちんちくりん(雑種ではないらしいが俺は疎いのでよく分かりません)なのだが、もう一匹は違った。白くて何だか綺麗に思えたのだ。猫差別の激しいこの俺が、だ。まず第一に、臭くなかった(外に出たがらない猫らしい)。目の周りもグチャついていなかった。綺麗な顔で、綺麗な色の綺麗な体だった。その猫がゆっくりと俺に近付き、俺の小汚い顔にその小綺麗な顔を寄せ、静かにじーっと見つめるのだった。まさに「目と鼻の先」レベルの至近距離まで顔を近付け、じっと、ずっと、俺を見ながら静かにしているのだ。口周りが髭モサの俺を、同族もしくは猫世界ののんのん様とでも、思ったのだろうか?そして小さくニャーと鳴いてみせ、かと思ったら、布団の上の俺の手の甲に頭を乗せ、ゴロゴロ喉まで鳴らしながら腹を見せるのだ。どうやら初対面で気に入られたらしい。俺は俺で不思議な事に、相性だろうか?ちっともアレルギー症状が出ない。眉間を触ってやれと祖母があおるので鼻の上まで撫でてやったら、気持ち良さげに目をつむってしまった。俺の手を枕にしたまま、ゴロゴロ言いながら、だ。完全に好かれている様だった。悪い気はしなかった。綺麗で静かな猫もいるもんだと、しばらくそのままにしておいてやった。不思議な事もあるもんだ。しかし、俺は甘い。俺は優しかった。その猫を、拒絶出来なかった。つまんで放り投げる事が出来なかった。思い出すと、今少しだけ不愉快である。何故に邪険にしなかった、出来なかったのか?すり寄られて落ち着かれたからか?俺が誇示してきた「イエスマンじゃねえんだよ馬鹿野郎」節は、こんなにも脆いものだったのか?容姿が悪くなくて気質が穏やかなだけで全く話は通じやしない相手(以前からずっとクドクド敵視していた決して相容れない属性。つまり「勘の悪いエゴイスト」の事)からのアプローチに対して、「うぬぼれるな!離れやがれ!よそへ行け!」と振り払って横腹蹴り飛ばして塩まいてアカンベー……も結局は出来ない・しないのだから、俺は甘ちゃんである。苛々ブツクサ呪祖の文句を敷き詰めていたって所詮この体たらく、実際はこの程度のダラシナサなのだ。しっかりしないと。いや本当に。好き嫌いの頼りなさは、そのまま、その人間の頼りなさである。笑い事ではない。こんなザマ、可愛くもない。可愛いでは許されない。もう、そんな年齢ではない(そもそも伝えておきたいのは、こんな気色悪いこっぱずかしい体験を白状までして文字数を稼がなくちゃならん程に、ネタと言うか話したい事がない、という現状である)。
いつもの様に婦人服を着て行った俺は祖母に、「こういう色でこういう柄の服が好きで好きでしょうがないんだけど、もしこういう類がこの家にあったら譲って欲しい」と、試しに伝えてみた。「そんなのアンタ、いっぱいあるわよ」という事で、即その場で「ブキミ婦人服捜索作業」が始まった。時計は深夜二時を回っている。外ではしんしんと雪が降り積もる。父親だけが一階で眠りこけ(彼はお役所務めなのでもう三十年以上「夜九時には就寝・朝六時前には起床」を貫徹している)、母親はバービー人形だらけのギャル部屋みたいな二階の寝室(バービーの小物や家具までもを集めている。人間の子供ぐらいの背丈はあるデカくて気味悪いバービーや、車椅子に乗っている「身障バービー」まで陳列してある)で俺が作ってあげた「沢田研二ベスト・葉蔵選」を聴いてウットリとしていたのを中断し、祖母と俺に加わって三人で、衣装部屋となり果てた「元・俺の部屋」を、片っ端からほじくり返す。流石に俺も母親も、くしゃみ鼻水のアレルギー症状が出始める。そして次々と、いい感じの婆ニット・婆ワンピ・婆ジャケット・婆カットソーが見付かる。一応厳しーく吟味し、選りすぐりの怪服は全て(勿論!ガムテープで猫毛を取り払い、念の為に洗濯もしてもらってから)持ち帰る事にする。かさばって持てないものは後日必ず郵送をと、約束をする。まさに大漁である。そして、灯台元暗しであった。どれも(私服としてもライブ用としても)即戦力だ。いずれ、ライブハウスでのお披露目となるだろう。こんなもの、俺が着なきゃ誰が(どこの婆さんが)着る?である。俺が弟や志村に着せなきゃ、誰が着せるのだ?
有意義な帰郷だった。彼女らの誕生日プレゼントには、ちょこんとしたDVDプレイヤーを贈呈・リビングに設置して、先日のBigJokeのライブ映像を置いて(母は安全地帯のギラギラナンバーを息子が気持ち良く唄う様に育ったのを納得のご様子だった)、俺は中野に帰った。 ちなみに、そのDVDデッキで最初に再生したのは、俺が持ち込んだ「とんでも戦士ムテキング」のDVDだった(再生すると母親は俺より細部を記憶していて、ホットケソーサーがムテキング変身直前に放つ「シリアス玉」まで覚えていたのだから驚いた。そう言えば放映当時うちにはサイザンスの超合金もコンチューターもメデタインもあった。千葉繁が声をあてている救援メカ・トカゲッテルだけは持ってなかった)。
話は変わるが、アニメ・特撮ヒーローの好みにいたっては、俺は完全に懐古主義者であると、声を大にして言っておきたい。この好みだけは、最早しょうがないのだ。CGだらけのデレデレアニメや、フィルムで撮ってないツヤツヤライダー(憂いゼロのギャル男ライダー)には、今後も絶対に、俺は一切惹かれる事はないだろう。 で、色もテンポも空気も全て忘れられないのが、自分が通った昭和末期(1980年代)のアニメなのである。ドテラマン(タツノコアニメ史にひっそりとお茶目に輝く、決して侮れない隠れた名作!八奈見ファンならば必見!!)全話に続いて、今はムテキング(前述の、言わずと知れたタツノコプロ代表作!)全話を、大枚はたいてDVD-BOXなるものを買ってしまったので、ここ最近ずっと、集中的に、観ているのである。自宅の14インチのテレビでだ。しかもほぼ毎日、メシ時にだ。面白い。悪玉クロダコブラザーズとチビダコの兵隊が、毎回毎回なかなか行動的(ムテキングが出て来るまでは作戦は常に成功しているので、架空の街「ヨンフランシスコ」はきっちり毎週混乱してはクロダコに制圧されている)で、ルックスも訛りも笑い方も、心底憧れる。抜群にかっこいい。その紅一点・タコミも、文句なしで可愛い。はっきり言って、好きなタイプである。ドテラマンの思春鬼然り、アンパンマンのドキンちゃん然り、ストップひばりくん然り、このテの「積極的女子」に、俺は一貫して目がない。はっきり言って、この惚れ方には例外がない。にやにや笑みを浮か べた娘さん(自分より経験が豊富そうに思えるので、精神的には完全に「お姉さん」であるが)による、余裕ある自信満々の振る舞いにのみ、俺は分かり易ーく、いつもいつでも、心奪われるのだった。更に言えば、サービス精神(だと俺は思う)ある、頭がちゃんと回る(回らないと女優さんだって痴女キャラはこなせない筈だ)、情熱的で意識的な「精神殴打上手」の女性(顔さえ老け込まなければ、年は当然くっていた方がいい。最も人間に大切なのは「経験」なのだから)にしか、俺は用なんかない。 (※意識的なら暴力ではない。逆に、無意識で無自覚な精神殴打は暴力である。驕った無能女の配慮に欠ける暴力である。俺はそういう類の無知・無自覚・即ち「頭の悪さ」を心底侮蔑し続ける。ひときれの人格も敬えずに、優しく深く退屈する)
そんな話がしたかった訳ではないので、この辺でおしまいにします。しかし特に最近、こう意地を張り続けているからだろうが、ろくな事がない。頭にくるので、更に意地を張り通す事にする。
今週のおかず五品: 虫の眠り/タイムスリップ HELLS ANGELS/BOB DOWNES OPEN MUSIC I'M BIGGER THAN YOU/MUMMIES WILD CHILD/穴井夕子(←俺が考える「いい女」はもれなく全員この曲が似合います) 幸運序曲〜大福星のテーマ〜/時代錯誤 ↑ページのトップに戻る↑
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