第九十六回 まだまだこぼれる俺の弱点と要塞(後編)

(先週の続き)
気絶すりゃ楽だったんだろうが、意識は飛ばずシッカリあった。傍らで一緒に隠れていた「鬼ごっこメイト」の友人の肩を借りながらも、どうにか自力で職員室まで移動した。ヨタヨタ歩いた廊下には、道道ポタポタ真っ赤な滴で、薄汚い「簡易バージンロード」が出来上がった(「あの時あたし先生に言われて廊下の血拭いたんだよ〜」という複数の女子達と後日仲良くなるキッカケにはなった。あと、その当時の「中二版文集」ではぶっちぎりで目立った。文集内でクラスメイトが何人もこの事故について触れるし自分もこの事を書けば原稿が埋まったので楽だった)。
ズキズキした頭で、死への恐怖よりもまず脳への衝撃できっと頭が悪くなるだろう(記憶をなくす・知恵が遅れる・等)とボンヤリ想定してしまったので、あからさまに怯えながら、止まらない鮮血をジャージで拭いながら、救急車を待つ(待機してる間に職員達に「俺、バカにならないですかね?バカになりますかね?」と何度も聞いたので「大丈夫!落ち着きなさい!」と何度も言われた)。が、結局は待ちきれず保健の先生の車の助手席に揺られ、血は流れ続けるのに一向に意識はなくならないので正常に不安なまま、市内でそこそこの大病院に到着、ヨロヨロとした足取りで飛込む。
即手術を始めてもらったのはいいが、何と!麻酔が全く効かない。待っても待っても効いて来ない(と、ここで今よく考えたらそもそも大きな病院に駆け込んだかどうかも疑わしくなってきた。15年以上前ともなると流石に記憶も曖昧だって事か)。針が頭皮を通る感覚も皮膚が糸で引っ張られる感覚も、誤魔化しゼロで伝わってくる。あまりの痛さに直訴して麻酔を追加(またその麻酔の注射が痛かったんだが)、それでも効いて来ない。仕方ないので結局、執刀医(手術自体は彼と自分のマンツーマンだった気が…小さな椅子ベッドみたいなのに横になって……ほら!思い出す程に貧乏臭い!デカい病院なんかじゃねえぞやっぱり!!)との「世間話を盛り上げて気をそらす」という手段を選び、喋り倒す。
ちょうど前日が「三年生を送る会」(もうすぐ卒業していく先輩達へ在校生である一年坊二年坊が「出し物」を次々披露して楽しませる行事)だった。自分はコントじみた小芝居に出演、「カップルの彼女役」つまり女装をノリノリでこなしたのだった(当コラムでも何度か執拗に繰り返し主張してきた筈だが、ここで更にもう一度繰り返すが、こんな葉蔵でも昔は髭も体毛も吹き出物もなく華奢で声も高く、ツヤツヤの天然茶髪の似合う中性的で可愛い「オンナオトコ」な色白少年だったのである。しかもそれは自他共に認める「可愛らしさ」「小ささ」である。その証拠に同級生の「隠れホモ児童」に押し倒されたりしゃぶられた事もある。またこの女装発表がなかなか評判がよろしく、直後でヅラも化粧もそのまま女制服も脱いでない状態の自分の元へ「びびった。惚れた」と口走る同級生が何人か凝視しに来た。嬉しかった)。
そのホヤホヤの「お祭りエピソード」を初対面の相手に、しかも自分の切り裂かれた血まみれの頭を縫い続けるという行為真っ只中の医者に、まさしくチンタラチンタラ縫われ続けながら、「結構ウケたんですよ〜女装ぉ〜。だからぁ〜気分良かったんですよ〜」と、体ビクンビクンさせながらも頑張ってオシャベリしたのである。医者は感じの良い聞き上手の男だったので話も弾んだ(なかなか話し易かった覚えがある)が、勿論そんな程度のダベリが麻酔代わりになる筈もなく、激痛が誤魔化される訳もなく、拳は握りしめっぱなし、くいしばった歯はギリギリ、脂汗はダラダラ、心配で見守りに来た母親(と、「一人じゃ怖い」とだだをこねた彼女の付き添いを買って出て一緒に手術室の中にまで入って来た近所のオバサン)はソワソワ。

…でした。記憶が正しければの話ですが。(ちなみにそこまで誇張して話してはいません)
手術の為に当然、綺麗に伸ばしたお気に入りの吉田栄作風サラサラヘアも、スッパリと剃り落とされました。しかも傷口周辺だけ剃られてしまったので、ちんまりカッパハゲみたいになってしまい、伸び揃うまでアメカジライクなバンダナ巻いて隠して(それプラス大江千里タイプの黒縁眼鏡)登校してました。言うまでもないですが、それ以前と全く同じで(学年での知名度は一気に上がりましたが)別にモテたりはしませんでした。日々口を開けば、相手を選ばず下ネタばかりだし。チビだし。スポーツしてないし、出来ないし。「読書クラブという名の帰宅部」所属の、サエナイ君でしたから。

お聞きの通り、完全に子供の怪我です。しかも、只はしゃいだ挙句の自業自得の有り様です。子供の喧嘩以下です。
そもそも自分は他人を「ちゃんと拳で殴って」傷付けた事さえ、30年生きて来て未だ、たったの二度きりなんです。人数にして二人。どうですか?こんな30歳男性は。しょぼいでしょう?アリエナイでしょう?多少なりとも驚いて下さい。
しかもその殴った相手、一人は実の弟、もう一人は知的障害児です。笑って下さい。幻滅して下さい。自分は、身内と知恵遅れしか本気で殴った事もない、ぬるい男なのです。

自分が弟を殴ったのは10年程前、彼の人間性に頻繁にイラついていた時期でした(※ご存知の方も多いでしょうが、今はとても仲良くやっております。現在の弟はとても優しくていい子であると断言出来ます。兄の方が数倍性格悪いのに彼は臍一つ曲げずついて来てくれています。兄がもてあそんで放り捨てた女もキラキラした瞳で拾い上げ優しく慰めます。カラダ目的の再利用であるとは言え丁寧に扱い愛撫し続けます。我がバンドの唯一の「良心」担当です。立派です)。
真夏の糞暑い中、実家にて、兄がせっせと模様替えして綺麗に作り変えたベッドルームに、そのリメイクしたてホヤホヤおニュー同然のシングルベッドへと、只でさえ気が立つ熱帯夜に、模様替えどころか掃除もろくにしていない自らの部屋から文字通り乗り込んで来た弟は、一人安息の眠りにつこうとしていた兄の隣に強引に滑り込み、「眠れない!来るな!出て行け!お前の汚い部屋に戻れ!」という兄の正当な訴えを完全に無視し、脛毛が触れ合う超至近距離で図々しくも熟睡し始めたのです。
我慢なりません。自分の一人の為の手製の寝床です。贅沢な安眠をしたけりゃお前もお前の部屋をちゃんと整理して片付けてリニューアルしろ!って事です。我慢なりません。
体をガッと掴んで力任せに揺さぶり起こし(彼が寝巻きとして着ていたTheWHOのTシャツを引っ張って襟元ノビノビにしました)、体とそれから頭とを、いわゆる「ボコボコ」という具合いに何度も本気で殴りつけた後、これ見よがしで目障りなピアスが丁度良く手に触れたので結果的には引きちぎり、蹴飛ばして追い出してやりました。
が、痣だらけ瘤だらけプラス泣かしてしまったので、翌朝流石に可哀想になり、どう考えても完全に向こうが悪いのですが後味の悪さにも耐えきれず、自分は気遣いに走りました。近所のスーパーに朝一で向かい、ペプシコーラ(弟は当時この「馬鹿の飲み物」をほぼ毎日グビグビ摂取していました。今はもうあんな砂糖水に金は出さないそうです)と彼の好きそうな菓子パンを何個か買い与えて、昨晩の暴虐をさっさと詫びてしまう…そんな兄なのでございました。

(知恵遅れを殴り飛ばした話は、また来週します。念の為に先に言っておきますが、自分は当時、「正義の味方」として奴を「やっつけた」のです。好きな女達の復讐を「代行」したのです。よって、その日自分は誰からも、相手が職員室に即逃げ込んだので呼び出しこそ食らいましたが、どの大人からも、殴った事を咎められはしませんでした)


今週のおかず三品(正確には六品):
アイ・カム・フロムノーウェア〜溺れる魔女〜エンヴェロウプス〜十代の娼婦/FRANK ZAPPA
PER UNA STRADA AFFOLLATA/SEMIRAMIS
PROUD OF SHIT/SCRAWL

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