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第11回 1泊6日の北海道旅行 立志編
どうやら北海道に行くことが決まる
11月の上旬は学園祭の季節。華やかにモラトリアムに守られた学生たちが意気込んできらきら刹那的に輝く季節。淡い青春の季節。夏も過ぎて涼しくなってきたよ。紅葉見に行こうよう。今度ウチの大学は大塚愛が来るらしいよう。 サークルなんて大学生が入るような組織なんかには入れてもらえないしょうもないC級大学3年生が3人、2限終わって別に次の授業出席とらないからって昼からがぶがぶ酒を飲んでる。彼らの会話は最近観た映画と読んだマンガと女優批評。バイトのグチと女の話と確実に真っ暗な、存在し得ない未来の話。行き止まりってことは言いっこなし。足引っ張り合って確認しあってる。無価値を。ダークを。虚無を。無駄を。怠慢を。悲劇を。見えない夢を。聞こえない愛を。 2003年。 Mの家。汚いぼろアパート。ただでさえ汚いのに、掃除しないからもっと汚いよ。靴脱いで上がったら靴下汚れるから土足で上がる。空きビール缶が散らばってCDが散らばって、俺が貸した文庫本にカビが生えてて古今東西の映画のビデオテープが積まれて城になってる。ユニットバスの洗面台の排水溝はタバコで詰まってるから水流しちゃだめだよ。黄ばんだ天井と、殴ったら穴が開いちゃった壁。うずたかく洗濯物。スプリングむき出しのソファーベッド。何故か常に焚かれている香。灰色。 群青色。
「もうさ、どうせすることないんだからさ、学園祭の連休使ってどっか行かね?旅行」と淡麗をくいっとやってYが言った。 「いいね。行こう」 と、淡麗をくいっとやって、Mがにかっとして言った。 「俺はいいわ」 と淡麗をくいっとやってSが言った。 Y「いやいや、お前も行くっしょ」 S「お前らと旅行とか行きたくねえよ。つうか、今酔ってしゃべってるだけでどうせ行かないだろ?」 Y「行こうって」 M「どこに?」 Y「屋久島とか」 M「いいねえ」 S「はぁ?何で屋久島?鹿がいるとこだっけ?」 Y「高山植物とか見たいじゃん」 S「別に見たくねーよ」 M「温泉でいいんじゃない?」 S「男だけで行くの?」 Y「俺ら男しか知り合いいないじゃん。TとかDとか誘ったら行くかもよ」 M「Dは行かないな」 S「Dは行かないな」 Y「まあ、Dは行かないよな」 M「Tもなんやかやで行かないだろ」 Y「そうかもな。だから3人で行くべ」 S「だから嫌だっつーの」 M「温泉でいいんじゃない?」 Y「どこ温泉?」 M「箱根」 Y&S「ちかっ」 S「一人で行けよ」 Y「日帰りか。旅行じゃないだろ」 M「じゃあ道後」 Y「あれだろ、温泉って箱根と道後しか知らないんだろ?」 M「知ってるよ」 S「じゃあ他言ってみ」 M「白骨温泉とか」 Y&S「あー」 Y「で、どこ行く?」 M「じゃあ、佐渡」 Y「そんな気使って遠いとこにしなくていいよ」 S「佐渡って何があるの?」 M「トキとか金山とか…厨子王とか」 S「トキって死んだんじゃなかったっけ?」 M「何かがあるんじゃね?ホルマリン漬けとか」 Y「見たいか?トキのホルマリン漬け」 M「レーニンのホルマリン漬けは見たい」 Y「じゃあロシア行くか!」 M「俺パスポート持ってねえよ」 S「佐渡って石川?」 Y「新潟じゃね?」 S「別にどっちでもいいけど」 M「温泉いいよなぁ」 S「江ノ島でいいんじゃない?」 Y「江ノ島はサーファー怖いから駄目」 S「福島の俺の実家来るか」 Y「お前行かないんだろ?旅行」 S「あ、そっか」 M「温泉は?」 Y「韓国は?女買うなら韓国がいいってインドで会った上智大生が言ってたよ」 S「ソフィアンね」 M「いいな韓国」 Y「多分そんなに金かからんっしょ」 S「韓国はちょっと行ってみたいな」 Y「じゃあ韓国決定で」 M「あ」 Y「何?」 M「俺パスポート持ってね」 S「だからもう行くなって」 Y「北海道は?」 M「いいね北海道」 Y「釧路湿原だな」 M「ベランダー畑だな」 S「つまらん」 Y「北海道いいじゃん」 M「じゃ、行くか、北海道。どうやって行くの?」 Y「知らん」 S「行ってらっしゃい」
Sはこの会話の10分後いびきをかいて寝た。DとTに電話をかけて旅行行くぞと言うと案の定断られた。YとMは男二人で北海道に何の計画も無く行くことになった。突然だったので飛行機の早割りも取れない。突然だったので、茨城県の大洗〜苫小牧間をフェリーで行くというシュールな旅。行き当たりばったりでどこまでいけるか。金は足りるのか。何も考えずに旅行。無駄でしょうがない日常が怖くてしょうがないから。どうせしょうもない彼らは北海道に行ってもしょうもないのかどうかを確かめに。
絶対に、先に行っても何も無いよ。 本当に何も無いのかどうか確かめに行くんだよ。 何で?何のために?
先に行く。金を払って先に行く。先に?先って?
つづく
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