第17回 四国遍路編8

 7月25日 8日目 ユメとセイ 後編



 夕方になって左喜浜という集落にたどり着く。周りに広がる部落感。「差別はね、僕もあなたも、悲しいよ」という地元の小学生の作った標語が、公民館に大きく掲げられている。いいじゃんそれ。山頭火よりいいじゃん。ぐっとくるよ。近くにあった「みかど食堂」という食堂で親子丼を食って、貰った麦茶をがぶがぶがぶがぶ。死ぬほどうまいわ麦茶。麦茶はロックだ緑茶はポップだって言ったのって誰だったっけ?「みかど食堂」のいかしたおばさんと話をする。お遍路さんをここで何千人も見ているのだという。漬物をもらう。外を見ると、曇りだしていた。おばさんによると今夜は雨らしい。おばさんによく野宿する人がいるという近くの大師堂を手際よく教えてもらう。笑顔で礼を言う。よかった。寝床が決まった。


 崖の近くのぼろぼろの大師堂は、戦国時代の映画とかで出てくるようなところだった。かすかすになった木製の1畳。ぼろぼろの御堂。3体の地蔵。この中で野宿。武士じゃないか。まるで侍だ。ああそうか、俺は武士なのか。野武士か。落ち武者か。バガボンドなのか。地蔵と眼が合ったから一応挨拶。こんにちは。よろしくおねがいします。お邪魔します。シートを敷いて、殺虫剤を噴き撒いて地蔵の前で無駄な殺生。蚊取り線香を点けて、靴を脱いで。気分はもう完全に武士。杖を刀に見たたて、なにやつ?とかやって一人で遊ぶ。自分のことをそれがしと自称する。拙者のほうがいいかな?私、でもかっこいいかもしんない。拙者は剣の修行で旅をしているのじゃ。武者修行じゃ。精進じゃ。


 大師堂を管理しているという、道の向かいの酒屋さんに挨拶。そこのご主人は戦争中宮古島に駐屯していたそうだ。何かと喜ばれる。ひょんなとこから故郷との繋がり。得する。ここら辺の景色は有名で、あの岬は七色なんだよ、というようなことを教えてもらってような気がするが、方言がきつくて何を言っているのか分からない。2リットルの良く冷えたサントリー烏龍茶とカロリーメイトとおにぎりを貰う。ありがたい。ありがたまくり。俺は武士だからこういうときはありがたき幸せ。もしくはかたじけない。拙者は武者修行の途中なのじゃ。夕立が降り出す。


 一夜の宿に戻ってランタンの光で四国の地図を眺めて明日のルートを確認。外は雨。ほとんど読み進められていない、持ってきた「君たちはどう生きるか」吉野源三郎著、1937年、岩波文庫を読む。コペル君がやばい。こいつは名著だ。
 夜半になると雨は強まって土砂降りになった。ますます武士。次の日も歩かなきゃなんないから早めに寝支度。大雨。大師堂で野宿。遍路。武士。なんとも言えない感慨。今の時代のこの国に俺の年齢でこんなわくわくする経験をしている人が一体何人いるだろうか。武士だぜ?黒澤映画だぜ?なかなか寝付けない。大雨の高知県。崖のそばでざーざー波の音が聞こえる大師堂で、俺は一人で足をじたばたさせて喜んでいた。俺は自然を感じている。俺は時代を感じている。俺は宗教を感じている。俺は人生を感じている。俺は出会いを感じている。俺は世界を感じている。俺は空海を感じている。俺は武士を感じている。俺は夜を感じている。俺は雨を感じている。俺は遍路を感じている。

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 そのとき僕はある情念に駆られました。その思いつきはとても激しいものでした。しかしとても愉快なものでした。抗うことの出来ない強烈なパッションでした。自分の人生がリアルなものかどうか確かめるにはそれは通過しなければいけない儀礼のような気がしました。それをしないと一生後悔してしまう様な気がしました。それは人によっては不遜行為だと指摘されるようなことでしょうが、空海はもともとエロかったようですし、真言立川流ってのもあるし、ん?真言立川流は邪流扱いなんだっけ?知らんけど、とにかく僕にはそれは正当な行為のような気がしました。僕はその思いつきをすぐに実行に移しました。思ったことは後先考えずにすぐに行動に移すべきなのです。感情優先。それが唯一の、宇宙の謎を解く鍵だと僕は思います。僕はトランクスを自らずらしました。

 携帯でエロサイトにアクセスし、エロ小説を探しました。僕は画像よりも文章のほうが興奮します。想像力ですイマジンです。結構自慢できる特技だと自分で思ってるんですが、エロい夢の余韻とかで事を済ませたりできるんですよ僕。すごいっしょ?場所が地方で大雨なため、電波がなかなか入りませんでしたが、目当てのものはすぐに見つかりました。痴漢ものだったと思います。
 稲光が光ってお大師さんの像がこっちを見ているのが見えました。外は大嵐なのでした。太平洋から強い強い風が吹いて、ぼろぼろの障子をがたがたと言わせていました。もしかしたらこのまま海が荒れて、この大師堂は波に飲まれてしまうかもしれません。そういうことが頭によぎるほどの土砂降りでした。真っ暗な夜でした。虚無の夜でした。無限の夜でした。覚醒の夜でした。自由の夜でした。


 むぴゅっ



 そこは大師堂。


 人生は暇つぶしだ。

 暇つぶしってことは娯楽だ。

 命かけて真面目に遊ぼう。

 いまだ室戸岬は攻略できず。

 俺はすっきりして寝る。

 旅は続くよ。

 起きたらまた明日だ。

 まだまだ歩かなきゃなんない。

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