第30回 四国遍路編11

 7月26日 まだ9日目


          駄・洒・落



 「駄洒落で世界は変えられないだろうか」

 上の命題は太古から多くの文化人が、愛する人の笑顔のため、より良き国家を作るため、平和な政治を実現させるため、真理を得るため、持ってしまった夢を叶えるため、金を稼ぐため、頑固親父を説得するために、果敢に挑んできた究極の命題である。人間は駄洒落を欲する。人間は駄洒落が無いと生きていけない。人間は駄洒落である。駄洒落は人間である。そして、駄洒落は駄洒落である。長い人類史の中現在までに、我々は、多くの素晴らしい駄洒落を生み出し続けてきた。その中のいくつかの著名なものを下に並べてみる。


 「我思う、故に我あり」


 「神は死んだ」


 「語りえぬものは、沈黙せざるをえない」


 「生まれてきてすみません」


 「ミシュス、君はどこにいるのだろう」


 「そのほくろの中にいぼを見出すまでの間、僕は君を愛するだろう」


 「恋はハートでヨロシク」


 「100円玉で買える温もり、熱い缶コーフィー握りしめ」


 「父ちゃん母ちゃん頑張って、死なないでね頑張って」


 「1回だけの女の子にも、遊びの女の子にも、やさしくしてあげてね」


 どれも時代を、社会を代弁し、多くの人に影響を与えた優れた駄洒落である。
 そして、何を隠そう、私自身も駄洒落を欲し、駄洒落で文化に貢献したいと思う人間の一人である。私は齢17の頃からずっと考えている。本物の駄洒落とは何か。マジ駄洒落とは何か。真・駄洒落とは。The駄洒落とは。ダジャ・ダジャレ。ダジャレブルースエクスプロージョン。ダジャレイ・マンザレク。ダジャレイ・ハラカミ。ダジャレミー・ボンヤスキー。シャダレ。ダサレ。サラダ。ダダレ。ダダダレ。ダダダダダレ。ダダイズム。シャレード。髑髏。昇龍拳。長州力。えっ、誰?。なんだお前か。
 そう、その一言で、山が崩れて海が干上がるような気分になって、そのまま天国に行っちゃうような。口元がでろでろにただれて、誰にでもやさしく微笑めるようになるような。青空をいつでも頭上に広げることができるような。学生が卒論に使うような。原油価格に直接影響を与えるような。パラダイムを動かすような。惚れた女を濡らすような。そんな駄洒落。最強の駄洒落。駄洒落を探しているのだ。練っているのだ。私は駄洒落で世界を変えられると、信じているのだ。
 心から。





           ヽ(´へ`)ノ




 室戸岬を攻略した俺は、すとんすとんと寺を打っていく。第24番札所最御崎寺、第25番札所津照寺。夏は相変わらず暑い。もうね。飽きた。夏。いつまでも続くぎらぎら。太平洋高気圧。もう4日くらい風呂に入っていない。タオルで顔を拭くとタオルが汚れるよ。汚ねえよ。臭えよ。さすがに風呂に入りたい。俺は憎き室戸岬をぶっ殺した自分へのご褒美に民宿に泊まることにした。金かかっちゃうけどな。地図見た限りでは周りに銭湯もなさそうだし、相当疲れてて、もうできれば布団で寝たい。第26番札所金剛頂寺の近くの民宿「うらしま」を俺は見つけた。ここに泊まれるだろうか。

 俺「すいません、予約してないんですけど、泊まれますか?」
 宿のおっさん「ああ、かまんよ(好意訳:はい、全然かまわないですよ)」

 一応客なんだけどな。一泊夕朝食つきで6000円。安いじゃん。普通の旅行だったら最高だな。結構新しい建物で綺麗だし。最高の贅沢だ。だって布団で眠れるんだぜ。でも金無いから節約しないと。今日は自分への褒美。こんな浪費は最初で最後。

 部屋に案内されて俺はまず畳に感動。畳だー。すげー、い草の香りがする。すげー、座椅子だー。蛍光灯だー。テレビだー。エアコンだー。うわー。壁だー。柱だー。屋根だー。「家」というものにいたく感服。俺は原始人か。でも、「衣食住」で「住」ってぴんとこないけど、やっぱ大事なんだね。すごいよ。家って。だって雨降っても濡れないんだよ。日常生活じゃ気づかないとこだね。気づいてるから偉いってことは絶対無いと思うけどね。縄文人が現代の利器を見たら絶対失禁するよね。賭けてもいい。壁見て泣くね。あーすげー。そして我に帰ってちょっと悲しい。何で俺こんなきつい思いして旅してんだろ。
 靴下を脱ぐと、ポッキー焼け。
 部活じゃないんだから。凹む。ほんと、何してんだろ。4日風呂入らずにポッキー焼け。俺、幸せになれんのかな。

 風呂に入る。流れる水がにごるくらい汚れた俺の体。多めに備え付けのシャンプー使って8回くらい頭洗うもんね。石鹸盗むもんね。誰もいない浴場でどぶーん。泳ぐ。泳げるほどの広さじゃなかったけど意地で泳ぐ。潜る。コインランドリーがあって、洗濯。いやあ至れり尽くせりだ。金さえ払えばなんでもできるな。そこが街でありさえすれば。金があれば風呂にも入れるし、飯も食えるし、洗濯もできるし、屋根壁に囲まれて涼しく寝られるよ。すげーな。金って。

 下からおばちゃんの声、「ご飯できたんで食べに来てくださーい」
 俺、「はーい、今行きまーす」

 平和だ。これぞ旅だ。「ご飯でーす」「はーい」平和だ。俺は今まで何をやっていたんだろう。平和だ。なんで俺歩いてるんだろう。何で俺金無いんだろう。


 夕食はすき焼き!夏なのにすき焼き。そんでこれがうめーの。俺は完全に舞い上がっている。やっぱ宿はいいね。落ち着く。勝手に食事が出てくんの。もうね、肉がなんか超うめえ。絶対これ普通の肉じゃないね。ここでしか獲れないすごい肉だよきっと。
 こんな田舎の肉はきっと珍しい肉だ、という少々差別的な先入観と、軽く躁状態で人と会話がしたくてしょうがない俺は、向こうでテレビを見ている「かまんよ」おっさんに聞く。

 俺、「めっちゃうまいっすー。これ、何の肉ですか?」

 そしたら「かまんよ」おっさん、ああ、また聞かれた、みたいな顔で、

 「ああ、牛肉やね」

 恥かいちった。多分俺みたいな一人で浮かれてるやつ、たまにいるんだろうな。


 ふかふかの布団にぱりぱりのシーツ。やわらかい。枕、ああ、枕。枕だー。布団に寝転んで日記を書いて、寝る。ああ、この安心感。多幸感。この感じって、他所じゃ味わえないよな。

 そのとき、

 脳に落雷。俺は光った。俺は、その瞬間、


 駄洒落を思いついたんだ。


 その駄洒落はシンプルすぎて少々凡庸で、歴史級だとは言いがたいけど、


 でも、俺は自分の天性に覚悟した。


 自信のある駄洒落が降りてきたんだよ。


 俺は駄洒落を作れてしまった。


 俺は駄洒落を作れる。


 これで天下が取れる。


 絶対に、近い未来に、俺はこの駄洒落を成就させよう。にやつきながら寝返り。ふかふかの布団の中で俺はくっくと笑う。布団の中で足をばたばたさせる。俺には世界を変えられる可能性がある。

 その駄洒落とは…。






 まあ来週書くわ。

 じゃあまた来週!

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