第32回 俺はやりたいと思ったことは絶対に実行する自力で

 暇だ。

 退屈だ。

 鬱屈だ。

 暴れたい。


 やあエブリワン。

 今回はさして意味もなく3週間も引っ張った、駄・洒・落の話完結編ですよ。



 日野のアパートから、全徒歩全野宿で富士山を登頂して東海道をずーっと歩いて、熊野古道、紀伊半島をぐるんと回って伊勢那智高野山〜大阪の万博記念公園まで行ったことがある。別に理由は無い。ちょっと富士山に登りたかったのと、世界遺産になったばかりの熊野古道に興味があったのと、高野山に行かないと四国遍路は完成しないから。ただそれだけだ。暇だから歩いた。そんで歩くついでに、ちょうど1年前に思いついた駄洒落を実行した。


 尾張。


 富士山登頂の焼印が押された杖をついて、長くハードな旅路でぼろぼろになったバックパックを背負って、汚れたスニーカー。ユニクロの7分だけのパンツ。そんで、この日のために作った金色のTシャツ。そのTシャツには人目で素人がやったんだろうなってわかる真っ赤な刺繍で2文字がでっかくほどこされている。頭にタオルを巻いて、耳にはウォークマンのイヤホンが突き刺さっている。BGMは泉谷しげる。もうすっかり徒歩旅行者の俺は不敵な笑みで、ドーパミンを撒き散らして、エンドルフィンを耳から、アドレナリンを鼻から垂れ流して、血眼で尾張。興奮してるぜ。


 俺はメガロポリス名古屋市のビッグステーション名古屋駅前にいた。


 ツーサウザンドフォーサマー。1年前に思いついた究極の駄洒落を執行するために、ぼろぼろの服で俺は街を彷徨う。夏休み真っ盛りのシティは人だらけ。俺、超目立つ。すれ違いざま「あ、お遍路さんだ」と言うのが聞こえる。なんか汚いものを見る眼で名古屋嬢。確かに変だ。認めよう。登山して着のままだからな。俺のTシャツの刺繍をまじまじと見つめるおっさん。おばちゃんの哀れみの視線。多分夜中なら職質してくるだろう警官。



 駅ビル。セントラルタワーズ。エスカレーターのとこのベンチに勝手に荷物と杖置いて、本屋で名古屋の観光ガイドを立ち読み。適当に値段が高いところ、ここから歩いていけるところを選ぶ。隙を見て写メール撮る。はい。デジタル万引きしました。ごめんなさい味噌カツ。だって買うと高いんだもん。貧乏なんだもん。ごめんなさい海老ふりゃー。


 その店は駅から徒歩10分くらいのいい立地にあった。杖ついて名古屋。思った。街嫌い。なんかね人の目が旅人に冷たいの。俺の格好が変なのは認めるけどさ。3日風呂に入らず、体臭漂わせて大衆の中を写メールに写した地図見ながら歩く。地下通路通って信号渡って。


 駄洒落のためにね。


 良い店だった。老舗って感じ。
 店に入るといきなり、「お食事ですか?」と聞かれた。露骨。何に見えたんだよ。店に入るのは客以外にあるのか。俺は少しムッとしながらも、「そうです」と答えた。席に案内される。俺は荷物を降ろして、椅子に座る。金色のTシャツ。胸に大きく赤字で刺繍。


 「人生」


 そう、俺は人生を賭けてる。人生を賭けて人生を生きてる。人生を賭けて歩いている。人生を賭けてここにいる。
 「人生」、なんだよな。「旅」は。なぜ旅をするのかっていう問いは。なぜ生きるのか、に直結してもう、ほとんど同じだと思う。そう、人生とは。旅とは。生きるとは。俺は同じシナプスで考えている。


 昼定食で1800円もした。
 食べ方があるのだそうだ。さすが食通名古屋人。3変化も楽しめる。ていうか3変化させなきゃいけない。欲張りだね。普通に食えばいいじゃんね。まず最初は、普通に食うの。普通の「うな丼」として。でもここから変化しなきゃいけない。薬味つけるんだって。薬味つけて食わなきゃいけないの。これ第2変態ね。薬味とうなぎのハーモニーを楽しむの。絶対やらなきゃいけないの。そして最終変形。最後はお茶漬け。お茶付けにして、食べなきゃいけない。ぞろぞろ流して食べるのが乙。この食べ方をしないとただの「うな丼」だからさ。名古屋にあるのは「うな丼」じゃないんだよ。メニューと一緒に置かれた「食べ方マニュアル」通りに食べる。しきたりは守らないとね。名古屋では名古屋の法に従わなきゃね。




 もう一回書いておこうか。

 世界は駄洒落だ。

 人間は駄洒落だ。

 情熱は駄洒落だ。

 花は駄洒落だ。

 愛は駄洒落だ。

 俺は駄洒落だ。

 俺は駄洒落だ。


 よし。




 腹いっぱい。

 楊枝で歯間のウナギを突つきながら、次の行動を企んでいる。俺はまだまだ止まらない。ここは通過点だ。だって、こんなんじゃ全然、満足できないよ。この程度の駄洒落じゃまだまだだ。俺はまだ飽くない。まだ退屈だ。まだ暇なんだよ。だから次へ次へと、きり無い。終わりない。止まない。一年前に脳に降りた閃光を俺は信じて、動いて、今、難なく達成したよ。何の感慨も無い。多分こういうのの繰り返しなんだな。このことに大した意味は無い。そんなにカッコいいもんでもない。普通のことだ。続くだけだ。


 全然疲れないよ。

 だって駄洒落だぜ?楽しいじゃん。


 金色の「人生」Tシャツが汗吸って重い。



 この退屈を殺そう。この閉塞を殺そう。この日常を殺そう。この時代を殺そう。















 「人生はひつまぶしだ」





 どうだ。

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