第34回 There she goes

 今回はほんの2ヶ月前、最近の話。サマーソニックに行ったときの話。俺には7つ年下の弟がいて、そいつがバイトで金を貯めて東京に遊びに来た。サマソニを見に行くために。俺らは兄弟2人で葉っぱの電車に乗って、幕張まで小旅行。今年のサマーは幕張でソニックですよい。




            
彼女が、通る

         彼女、また行っちゃうよ

                僕の脳内を矢継ぎ早に巡るよ


 激動の1日目も終わって今日は2日目。今回のサマソニで俺が一番楽しみにしている出演者はもちろんthe la’s。『there she goes』は本当に名曲なんだよ。皆も聴いてみな。2日目は俺の弟はweezer見たいって言って別行動。俺は一人でlaに会いに行く。今年の夏は、これで終わるんだな。Laに期待を込めて。他のバンドのライブのことなんて、どうでもいいや。俺はlaだけ。



         
この膨れ上がる黄土色の感情を

      僕は押さえ込むことができない




 Laの前にteenage fanculbの出演。振り返ってみると、teenage fanculbがサマソニ2005ベストアクトだったんかもしんない。やっぱ舞台は技術だね。Oasis とかnine inch nailsは盛り上がりが尋常じゃないから別としても、曲の良さやエネルギーだけじゃ気持ちは人に伝わらないもんなんだなって、楽器弾けないくせに俺はいっちょ前に思った。だって外人の寒いバンドって音ずれまくって、MCは「アリガトー」と「トーキョー」しか言わないんだ。意味わかんねえよ。teenage fanculbの演奏は、息もテクニックもばっちりで、これぞケミストリー、これぞバンド、みたいな、彼らにしか出来ない彼らの音楽だった。奇麗だった。別に後のla’sとの比較がしたいんじゃなくて、見せる、見せ続けてきた、これが仕事、これがキャリア、ってのって強いよねってこと。la’sには取り返せないブランクがある。



              
彼女が、風みたいに通る

   彼女、また風みたいに過ぎて行っちゃうよ

   
           僕の体中に彼女が脈打つよ


 でもね。好きな音楽っていうのは自分の脳内でいくらでも美化できるもんなんだ。俺が『timeless melody』で季節のスパイラルに気づいたり、『feelin’』で蹴り上げた透明な空気は、あの感情は当たり前だけど俺とla’sの間にしかないものなんだ。俺はそのことをちゃんと知ってるし、大切にしてる。だから俺はlaを観にここにいるわけで、何の不安も無い。





         
この粘着する黄土色の感情を

              僕は押さえ込むことができない




 MTVのVJ?鉄平が出てきて説明をして、コールを促した。オーディエンスはそれに応える。500人くらいかな、皆待ってる。彼らの出番を。la!! la!! la!! la!! la!! la!! la!! la!! la!! la!!俺はそれを後ろのほうから眺めてる。メンバーが出てきて、『son of a gun』から曲目が始まる。




      
そしてまた彼女が浮かぶ

            彼女がまたやって来るよ

       清涼な声で僕の名前を呼んで、僕の黒い重たい電車を引いてく

  どんな奴だって僕の赤茶けた痛みを癒すことはできない



 いいよなあ。音楽って。リーが弦で指切っちゃって曲目的にはイマイチで、大阪公演のときにやったっていうwho のカバーもstonesのカバーもやらなかったし、アンコールもやらなかったけど、俺は『looking grass』が聴けて、幸せ。いいじゃん。いいんじゃん。目を閉じて音楽を聴いている瞬間は、時間が伸びてぴったり張り付く。空間が固まって絵になるね。




             
この乾燥した黄土色の感情を

        僕は押さえ込むことができない


 目当てのライブが終わって、俺は大満足。これで秋を迎えられるね。セックスした後みたい。
 そんで、気分が高揚してて、あ、もしかしたらoasis最後のほうは見れるかも、って俺は千葉マリンスタジアムまでダッシュ。なんか走りたくって。走った。行く途中で色んな人がいる。宴もたけなわだってのに、いちゃついてるカップルとか、寝ているやつとか、未だにチケット売ってるダフ屋とか、ラリってる奴とか。俺は上がる熱気が肉眼で確認できるスタジアムまで走る。夜道。頭上には月。真っ白な半月。
 途中、何か四角いものが落ちていた。拾って見ると、幕張駅から新宿駅までの料金分の切符だった。ラッキー。タダで帰られるね。今日は相当ツいてるな。




                     
彼女が、通る

        彼女、また行っちゃうよ

               僕が行こうとする方向にかすんで行く


oasisの演奏開始時間は遅れていたらしい。はいまたもラッキー。すごいぞ。『lyla』から観れた。2曲目から。暗闇のマリンスタジアム。後ろのほうから観ようと思って、一番後ろの階段を登った。そしたらなぜかマリンスタジアムの放送席のとこの踊り場に人がいなかった。これまたラッキー。一番、ステージから遠いところ。でもスタジアム全部が一望できるところ。その景色っていったら。まさに壮観。ナチスの煽動映画みたい。虫けらみたいなちっちゃい粒の群衆が、音楽を、共有?崇拝?洗脳?しているされている。ものすごい光景。気持ち悪い。宗教みたい。




            
この乱反射する黄土色の感情を

        僕は押さえ込むことができない



 俺はそこを即占領して、体中でoasisと大観衆のうねりのさまを観る。落ち目のoasisは昔のヒットナンバーをこれでもかと並べて俺に応える。『live forever』『wonderwall』『don’t look back in anger』『champagne supernova』…。すごいサービスだよな。やばいな。俺も中学生に戻って一緒に唄う。


 群集!!聴衆!!!

 俺は震えている。大観衆の合唱を受け止めるカリスマからぴったり真正面で。リアムから俺のことは全く見えない。でも俺からはリアムがまっすぐしっかり見えるよ。なんだこの感覚は。なんだ?人の前に立つ人間って?

 あまりの震えに、俺は尿意を催してきた。どうしよう。小便したいや。でも、こんないい場所とられるの嫌だしな。トイレもちょっと遠いし。どうしよう。多分まだまだこのライブは続くぞ。

 ていうか、ロックフェスってマナーって大事だよね。たくさん人がいるから、汚しちゃ駄目だよ。帰り際にはゴミ拾わなきゃ。サマソニは世界一きれいなフェスだってうたってた。本当かどうか俺は知らんけど。




       
彼女が、いる

   彼女、またいなくなっちゃう。




 リアムがあの声で歌い叫ぶ。「Toni〜ght!!!! I’m a rockn’ roll star〜♪」俺が中1の頃、バカみたいに流行っていたアルバムの1曲目だ。世界中のティーンが知っていた曲だね。リアムはまだ唄っているんだね。なんかすごいや。

 皆リアムを見ている。5万人が俺にそっぽを向いている。背中でoasisを聴きながら、俺は最低な行為をする。放送席の踊り場に黒く丸くシミができた。


 ん、夏でしたな。





            
この心臓をわしづかみにする黄土色の感情を


        僕は押さえ込むことができないんだ




すっきりだ。

↑ページのトップに戻る↑