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第44回 1泊6日の北海道旅行 朝陽編
マルクが目を覚ますと、隣でバカ山田がすうすう寝ていた。うわっ。きもちわりっ。なんだこいつっ。…ぬは、そうか、俺は今旅路なのだ。フェリーじゃん。少々気分が悪い。二日酔いか。携帯で時間を確認すると午前6時過ぎだった。電気の消えない雑魚寝の船室を見渡すと10人ほどが各々のグループで散らばって寝ていた。哀しい光景だ、とマルクは思った。なんか貧しいぞ。移動する民。海上の箱の中で、泥のように沁み寝る民。漂う民。和民。魚民。民生。マルクは、そうだ、朝サウナして汗腺からアルコールを出してしまおう、と起きあがる。すうすう寝ているアホ山田を放っておいてエントランスへ出た。早朝で誰もいない船内。なかなかに不気味。洗面室で歯ブラシに歯磨き粉を塗付して口内に突っ込み、そのままもごもご言わせて甲板に出た。 海。まだ陽は昇っていない。昨晩は真っ暗で何も見えなかったところにホライズンがはっきり見える。マルクは、偶然にも、一日のうちで最も美しい瞬間に立ち会ったのだった。西の空は未だ群青色で眠りに覆われているのに対し、東の空はもう既に、まるでミルクセーキのようなベージュ。水面がゆらゆらと揺れて、天が、点が、一点だけが、赤く輝いていて、朝陽の到来を分かりやすく示唆していた。見るもの、全ての生き物を圧倒させる、一日の到来。マルクは、歯ブラシを咥えながら思わず、「…グッモーニン」と呟いてしまった。まだ薄く残る朝闇の倦怠を水平線から、ルビーが弾けて、赤が橙が熱が光が、視覚を突き刺す。始まりが歌う。覚醒の閃光。夜が死ぬ。
太陽!
大洋から太陽。マルクは甲板のへすりから乗り出して見入る。マルクの眼の水晶体に火が点った。朝陽が、ゆっくりと、大男のように顔を覗かせ、世界を睨んでいく。その存在感。我々は一体この巨大さに向かって、何を興すことができるのだろうか。マルクは、また呟いた「…サンズ…カミナップ…」太陽はそんなマルクに気づいているのだろうか。いや、おそらく気づいていないだろう。きっと太陽はカシオペア座をどうやって口説こうか悩んでいて、周りのことなど、景色として見えてはいるが、光景として捉えてなどいない。それが太陽だ。
か〜んじ〜ざいぼ〜さ〜つ〜ぎょ〜じんはんにゃ〜は〜ら〜みった〜じ〜
そのときマルクは不思議な声に気づいた。右耳のほうから変なのが聞こえる。
しょ〜けん〜ご〜うんかい〜くう〜ど〜いっさいく〜や〜く〜
マルクはその声を聞きとるや否や、首を、真正面を0度と見立てたとしたら約82度、声が聞こえてきたほうに傾けてその方向を見やるという行為をすぐさま実行した。すると、おばちゃんである。50をとうに過ぎたであろう熟しきったリクガメみたいな体型のおばちゃんが、黒い数珠をじゃらじゃら言わせて、朝陽に向かって大きなダミ声で般若心経を唱えているおばちゃんが15mほど離れたところに、おばちゃんがいた。
しゃ〜り〜し〜
うっぜええええええ。マルクは地団太。なんだこのババア。この壮大なる風景が台無しじゃねえか。きったねえもん唱えやがって。ビッチ!ケツの穴に足首まで突っ込んでフローリング掃除に使っちまうぞ!ってんだ。ファック!
しき〜ふ〜い〜く〜く〜ふ〜い〜しき〜
ダスキン!
しき〜そく〜ぜ〜く〜く〜そく〜ぜ〜しき〜じゅ〜そ〜ぎょ〜しき〜やく〜ぶ〜にょ〜ぜ〜しゃ〜りしぜ〜しょ〜ほ〜く〜そふ〜しょ〜ふ〜めつふくふ〜じゅ〜ふ〜ぞうふ〜げんぜ〜こく〜ちゅ〜む〜し〜き〜む〜じゅそ〜ぎょ〜し〜き〜む〜げんに〜び〜ぜつしん〜い〜む〜しき〜しょ〜こ〜み〜そく〜ほ〜む〜げん〜かい〜ない〜し〜む〜い〜しき〜かい〜む〜む〜みょ〜やく〜む〜む〜みょ〜じん〜ない〜し〜む〜ろ〜し〜やく〜む〜ろ〜し〜じん〜むく〜しゅ〜めつ〜ど〜む〜ち〜やくむ〜と〜く〜い〜む〜しょ〜とく〜こ〜ぼ〜だい〜さつ〜た〜え〜はん〜にゃ〜はら〜みった〜こ〜しん〜む〜けい〜げ〜む〜けい〜げ〜こ〜む〜く〜ふ〜おん〜り〜いっ〜さい〜てん〜と〜む〜そ〜く〜きょ〜ね〜はん〜さん〜ぜ〜しょ〜ぶつ〜え〜はん〜にゃ〜はら〜みっ〜た〜こ〜とく〜あの〜く〜たら〜さん〜みゃく〜さん〜ぼ〜だい〜こち〜はん〜にゃ〜はら〜みった〜ぜ〜だい〜しん〜じゅ〜ぜ〜だい〜みょ〜じゅ〜ぜ〜む〜じょ〜じゅ〜ぜ〜む〜と〜と〜じゅ〜の〜じょ〜いっ〜さい〜く〜しん〜じつ〜ふ〜く〜こ〜せつ〜はん〜にゃ〜はら〜みっ〜た〜じゅ〜そく〜せつ〜じゅ〜わつ〜ぎゃ〜てい〜ぎゃ〜てい〜はら〜ぎゃ〜てい〜はら〜そ〜ぎゃ〜てい〜ぼ〜じ〜そ〜は〜か〜はん〜にゃ〜しん〜ぎょ〜
ムカついたマルクは歯ブラシを太陽に投げつけた。届かなかった。ぷんぷんして船内に戻り、サウナに行きデトックスで生き返る。時間があったし、山田はまだ寝ていたのでサウナ上がりにちょうどやっていた「GO」を観て時間を潰した。昼過ぎには船は苫小牧港に着く予定なのだった。
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