第47回 四国遍路編18

 まだ7月30日 13日目


 オチの無い散歩と桂浜のオットセイ 中編



 どんなにピースフルなものでも、いきなり目の前に出されると人間は驚き、異質なものと感じるようだ。超古典的な旅の道・脳内コスプレ松尾芭蕉からいきなり現代庭園にワープしたときの疎外感は、筆舌しにくい。俺は相当混乱した。マジで俺、死んだ?どこここ?ここどこ?

 とりあえず辺りを観察してみる。誰もいない。熱風が吹いている。見渡せば見渡すほど素晴らしいお庭である。ほんとに極楽みたいだ。just like a 理想郷だね。計算された完璧な景観。正午の太陽が真っ白で全てを漂白している。モンシロチョウが緊張感の欠片も無く漂っている。視界に入る全ての植物が懸命に、しっかりと光合成に励んでいる。俺はさっぱり訳が分からないでいる。

 俺は一つあることに気がついた。ここは森の道と違って直射日光が当たるので、くそ暑い。THE熱射。焼けそうだ。燃えそうだ。倒れそうだ。早急にここから脱出しなければ。影で涼まなければ。大体ね、俺はね、竹林寺って寺行って納経するという大義に基づいて行動しているんだよ。こんなとこにいる意味なんてないんだよ。ドッキリだったらシュール過ぎるよ。困惑具合はまあまあ面白いよ。それにしてもどこなんだここは。

 舗装された小さな遊歩道を発見。ロールプレイングゲームをやってるみたい。金入ってる宝箱無いかな?この道を辿るとどこに行くんだろう。陽明学は道を進んだ。するとピッカピカの近代トイレに行き当たった。センサーがいろいろ感知して頑張るデザイントイレ。こういうのって東京より田舎のほうに多いよね。政治的な何かがあるね。ていうか高知県は悪い税金の使い方してるね。知らんけど。小便して、洗面台で水筒代わりのペットボトルに水を汲む。自販機を見つけてコーラを飲む。ベンチに座って休憩。なんなんだよ。目の前にオシャレな喫茶店がある。でも営業していない。コーラは旨いなあって思っていると、掃除のおばちゃんが来た。人だ!

 「あ、こんにちは」と俺。
 「あ、はい。こーんにちは」とおばちゃん。
 「あ、すいません、変なことお聞きしますが」
 「あ、え?何でしょう?」
 「あ、あの、ここ、どこですか?」
 「あ、え、あ、はい?」
 「あ、何か迷い込んだみたいで」
 「あ、ここは牧野植物園というところです」
 「あ、植物園なんですか?」
 「あ、はい、そうです」
 「あ、え?ここって入場料とか取らないんですか?」
 「あ、取りますね」
 「あ、ごめんなさい。払ってません」
 「あ、いえ、たまに迷い込むお遍路さんっていらっしゃるんですよ。結構です」
 「あ、俺ですね」
 「あ、そうですね」
 「あ、申し訳ないです。竹林寺に行きたいんですけれども」
 「あ、出口から出られればすぐ竹林寺ですよ」
 「あ、出口はどこでしょうか」
 「あ、出口はあちらになりますね」
 「あ、どうもありがとうございます。へへへ」
 「あ、いえいえ。へへへ」

 苦笑い。ここは自らを「草木の精」と称した高知県出身の著名な植物学者牧野富太郎を記念して建てられた県立の植物園なのだった。入場する際は一般は500円。学生は400円かかるところなのだった。
 というわけでここで高知に行かれる予定の皆さんに朗報!!裏道から入ればタダで入れますよ!!坂上るけど。
 堂々と正門から外へ出る。迷ったふりして見学したほうが良かったかな、とちょっと思ったが、面白そうな展示物は無さそうだしそもそも牧野富太郎なんて知らないのでやめた。外に出ると植物園の目の前が目的地の第31番札所竹林寺だった。地図を見ると何か訳の分からないルートでここまで着てしまったようだ。まあ、目的地に着いたからよしとしよう。参拝し、納経する。その手順にもすっかり慣れた。
 32番札所禅師峰寺へ。そこまでの途中の喫茶店でカツカレーを食う。カツカレーを発明した人はすごいと思う。カツ+カレー。コペルニクス的転回。天才の技だ。誰が考えたんだろう。知っている人教えてくださいメールください。日本人なんかな?カレー屋が考えたのかトンカツ屋が考えたのか一般の家庭料理だったのか。家庭料理の線はなさそうだな豪華すぎる。狡猾なマーケティングの匂いがするよねカレ&カツって。始めたのがカレー屋かトンカツ屋かってとこ、結構興味深いよね。


 すぐに32番に着いて、すととんと納経。やっぱ人が多いところは寺も多い。寺と寺の距離が近い。順調な遍路。33番札所雪蹊寺へ向かう。

 一つ考えていることがあった。ちょっと寄り道して、すぐ近くにある桂浜に寄り、坂本竜馬像を拝もう、ということ。竜馬さんに俺は会いたかった。せっかく高知まできたんだから。カツオもこないだ食ったから、今度は竜馬さんだっぺよ。

 修行中にこうやって観光地を廻るというのはどうなのか、という人がいるが、俺は気にしない。俺の遍路は修行じゃない。散歩だ。ただの散歩なんだ。

 散歩。

 俺は浮遊している。逃避している。ぷらぷらしている。竜馬に会いたければ竜馬に会いに行く。

 俺は竜馬に会いに行く。

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