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第48回 四国遍路編19
まだまだ7月30日 13日目
オチの無い散歩と桂浜のオットセイ 後編
地図を見ると桂浜の丘の上にホテルがあるらしい。そこまで行けば風呂に入れてもらえないかと俺はふんだ。旅にも慣れて、こういう類のホテルは風呂貸してくれるってしってんだ。俺。そこまで頑張っていく。急斜面。遍路道じゃない坂を上ると損した気分になるね。到着。狙い通りホテルの最上階に温泉があった。 桂浜が見渡せる、オーシャンビュー温泉。見飽きないぜ太平洋。俺以外に客無し。いい湯だ。汗を流す。
重たい重たい荷物を公園の、目立つところに置いて、貴重品だけ持って桂浜一帯を散策。闘犬場がある。坂本竜馬記念館がある。水族館がある。水族館から、オットセイ?アシカ?鳴き声が聞こえる。
オウゥ。オウゥ。オウゥ。オウゥ。
もう夕方で遅いので、記念館も水族館も全部閉まってしまっていた。残念。誰もいない闘犬場は進入できたので一人で入る。別に何も無し。風情がありそうなもんだけど、完全に観光化されていて、さびれた遊園地みたい。沖縄の海洋博記念公園みたい。シャッターの閉まったお土産物屋さんはさびしいね。
ふらふらと遊歩道を歩く。地図によると向こうに行けば彼がいる。荷物を降ろすと身軽。悟空の気分。スキップして夕方の空。夕焼けが肌にしみこんでくる。
竜馬さんは、竜頭岬という岬の先っぽに、居た。
そっぽを向いていた。
彼は人のいる場所を眺めていなかった。
彼はまっすぐ太平洋を見つめていた。
でかい。
でかい。
でかい。
俺がここに辿りつくまで、ずっと、いや、俺が生まれる前から?俺の両親が生まれる前から?幕末から?このしかめっ面でこの人は黒潮を眺めていたのだ。睨みつけていたのだ。恐ろしい。何を見ている?何が見えている?俺は、像になってもゆるぎない存在感に、畏怖。嘆息。すげーよ竜馬さん。
坂本竜馬。坂本竜馬。すげえ。
オウゥ。オウゥ。オウゥ。オウゥ。オウゥ。オウゥ。オウゥ。オウゥ。オウゥ。オウゥ。オウゥ。オウゥ。
あっという間に夜が更ける。 桂浜は遊泳禁止である。驚くほど波が高い。この波にさらわれたら、多分あっという間に沖まで流されてしまうだろう。高知県の形が反っているのは黒潮の強い流れのせいなんだろうなあ。知らないけど。嵐でもないのにこんなに高い波が出るなんて、台風が来たらここは相当ヤバいだろうなあ。こんな地形もあるんだなあ。
あっという間に暗くなる。 桂浜は月の名所。美文家の大町桂月はここの月を号にしたのだ。だが今日は新月で、月は見えない。残念。真っ暗な夜。高波の海の上に天の川が薄くかかっているだけ。 浜に誰かいる。 浜に一升瓶を傍らに置いて、じーっと、じーっと真っ黒な海を見つめているおっさんがいる。ちょっと風流を気取った旅行者だろうか。もう何年もここで海を睨み続けている地元のおっさんだろうか。どっちでもまあまあイカしてるなあ、と暢気に思った。高波がざっぱん、と言ってしぶきを上げる。おっさんの背中は動じない。
オウゥ。オウゥ。オウゥ。オウゥ。オウゥ。オウゥ。オウゥ。オウゥ。オウゥ。オウゥ。オウゥ。オウゥ。オウゥ。オウゥ。オウゥ。オウゥ。オウゥ。オウゥ。オウゥ。オウゥ。オウゥ。オウゥ。
真っ黒な太平洋はざあざあざあと引っ切り無しにくっちゃべって、松の木は無言で何年も潮風を舐めて、ここでたまに枝に月をからませているのだ。俺はおっさんのロックンロールな侠気と竜馬の存在感に胸を打たれて、ふらふら浜を歩く。左手に、夜の海。飲み込んでしまいそうな真っ黒い海。桂浜の砂は粒が大きくて固くて、砂糖みたいだ。
浜にはまた、ぴっかぴかのトイレがあった。奇麗な身障者トイレ付き。お、ホテルみっけ。俺は荷物を桂浜のトイレに運び込む。モダン野宿。今日はここで寝る。シートを敷いて、バックパックを枕にして、横になる。竜馬のお膝元。月の名所。その感慨をかき消す、ここにいるはずの無い哺乳類の鳴き声。
オウゥ。オウゥ。オウゥ。オウゥ。オウゥ。オウゥ。オウゥ。オウゥ。オウゥ。オウゥ。オウゥ。オウゥ。オウゥ。オウゥ。オウゥ。オウゥ。オウゥ。オウゥ。オウゥ。オウゥ。オウゥ。オウゥ。オウゥ。オウゥ。オウゥ。オウゥ。オウゥ。オウゥ。オウゥ。オウゥ。オウゥ。オウゥ。オウゥ。オウゥ。オウゥ。オウゥ。オウゥ。オウゥ。オウゥ。オウゥ。オウゥ。オウゥ。オウゥ。オウゥ。オウゥ。オウゥ。オウゥ。オウゥ。オウゥ。オウゥ。オウゥ。オウゥ。オウゥ。オウゥ。オウゥ。オウゥ。オウゥ。オウゥ。オウゥ。オウゥ。オウゥ。オウゥ。オウゥ。オウゥ。オウゥ。オウゥ。オウゥ。オウゥ。オウゥ。オウゥ。オウゥ。オウゥ。オウゥ。オウゥ。オウゥ。オウゥ。オウゥ。
眠れねえ。
全部台無しじゃねーか。
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