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第53回 四国遍路編21
8月1日 15日目 白 海 人 前編
朝早起きして、まだ涼しいうちに距離をかせぐ。今日から始まる夏は天を日本晴れにして時間を。時間を祝福している俺は。
暑い。
ママンが死んだみたいな真っ白の下汗垂らし。
第36番札所青龍寺へ向かって歩いていた。いつものようにてくてく。朝の誰も歩いていない田舎道を。金をおろそうと郵便局に入る。それにしても郵便局はすごい。こんな田舎にもちゃんと真っ赤な看板で地図の通りに建っていて、ATMに入ると冷房が効いているのだ。1畳ほどの郵便局のATMルームで涼む俺。監視カメラとにらめっこ。Do the rock。
宇佐大橋が太平洋に引っ掛かっている。周りには誰もいない。黒潮。俺は近くの開いたばかりのレストランで海を眺めながらモーニング。食い終わり代金を払おうとすると「私たちの中にも信者が沢山いるんですよ。お代は要りません」とパートのおばさんウエイトレスに奢られた。俺は宗教の中にいるらしい。はにかんで礼を言う。「どうもすいません」なぜかぽっかり。
海がサニーライトを乱反射していて真っ白だ。眩しい。海が海みたいになってる。
俺は多分、遍路に慣れてしまった。遍路に成れてしまった?
遍路に狎れてしまった。そんなことを考えて複雑。慢雑。惰雑。
それにしても暑い。溶けそうだ。死ぬんじゃねえの?
今日の太陽は強すぎる。
36番青龍寺を打ち終えふらふら歩いていると、車に乗った男性とその息子であろう2人。長男次男。3人家族が四駆。俺の脇に停車。「よかったら乗っていきませんか?」とお父さん。「いいですか?すいません」と俺。車内はエアコンが痛いくらいに効いていてヘブン。俺は後部座席に乗せてもらって、おやつかなんか頂いて、あまりの居心地のよさに居眠りしてしまう。気がつくとそこは第37番札所岩本寺だった。寝ている間に約60キロぶっ飛び。四国遍路の難所の一つの山越えを俺は寝ている間にクリアしてしまった。流石に申し訳ない。ごめんなさい。
杖を持って歩いているのだが、この杖が擦れてしまって小さくなっている。俺の杖は車に乗せてもらったおじさんの息子が持っている杖の5分の4くらいの長さにまで減っていた。「沢山歩いたんですね」と大人ぶって中学生くらいの長男が言う。「そうですね」と俺が言う。蝉。寺内で蝉が鳴いている。
岩本寺には天井に碁盤状に仏教画や美人画、普通の幼稚園児の絵なんかがあって、ちょっと見入ってしまう。 実は遍路にはきちんとした礼拝方法があって遍路者はそれを守ってお経を唱えたりしなければならないのだが、俺は一礼するだけにしていた。面倒だったのと、宗教チックなものに違和感があったから。「願わないと叶わないってことを子供たちに教えようとおもってるんですよ」とおじさんは言って真面目に般若心経を唱えていた。俺は居心地の悪さを漢字ながら缶コーヒーを飲みながらそれを眺めた。
「四万十川で降ろしてください」と俺が言うと、「なるほどね」と何に納得したのかおじさんは頷く。俺は80キロ近くを楽して進んだことになる。いいのか。礼を言うと、「これで食事してください」と千円札をくれた。寝てたのに。ありがたく頂いた。
最後の清流がきらきら光っている。自転車に乗った太った女子高生が「こんにちは。頑張ってください」と声をかけて猛スピードで点になる。人に親切にされる、ってなかなか重いな。まだ太陽が高い。夏の昼間は白い。
誰かも言ってたよ。
俺が歩くのは太陽のせいだ。
さあ、アラビア人を殺せ。
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