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第55回 作文『私の信条』
銀色ビルのエスカレーター。
静電気で動いている。
システムフレーバーが鼻孔をスマック。
そのフロアの絨毯は青だった。
星みたいな泣き黒子を光らせた男が、「この度は弊社の採用試験にご応募頂きありがとうございます本日は採用試験でありまして簡単な性格検査と作文を書いて頂きますその結果を見て面接の案内を後日連絡させて頂きます概ね三日以内には連絡できるかと思いますではこのタイトルで作文をしてください」と言って一枚の紙を差し出した。そこには一文だけ、こう、書かれていた。
『私の信条』をタイトルに、800字以内で自己PR文を書いてください。(制限時間40分)
私は、書いた。
私の信条
私の信条は「思いついたら完遂」である。やろうと決めたことを最後までやらないと気がすまない。これがやりたい、これをやり遂げることが自分には可能なのではないか、と思ったら私はすぐに実行する。そのことが生きる意義で、人間が人間として一番輝く理由なのではないかと思っている。 地図を見ると自分の住んでいる街と世界中が同じように描かれている。南極もコソボもイースター島も同じ地平にある。そのことに疑念があった。自分の眼で見ている世界と書籍の向こうブラウン管の向こうが本当に繋がっているのか確かめたくなった。 この国で一番高いところは本当に自分の今の居場所と繋がっているのか。私は2004年の夏に、日野市の自宅から富士山の頂上まで、全徒歩・全野宿で行ったことがある。玄関から観測所まで。7日かかった。 7日しかかからなかった。 津久井湖畔で親切な親子にカップラーメンを頂いた。山中湖の三島由紀夫記念館を興味深く観覧した。7合目でテントを張って凍えながら寝た。朝、真っ赤なご来光を見た。高山病で信じられないほどの頭痛を体験した。見えているのになかなか着かない頂上を睨んだ。膝が笑った。煩悩がそぎ落とされていく感覚を知った。寒い真夏だった。私は満身創痍で頂上に着いた。 意外にもそのときの感慨は薄かった。ここまであんなに汗をかいて登ってきたのに、あまり感動しなかった。次は何をしようか、と思っただけだった。 ただ、そこの景色は絶景だった。 やってみたい、と思ったことはやるべきである。そしてやれば、続ければ遂げることができる。その繰り返しだ。 日本で一番高いところで美しい景色を眺めながらそんなことを考えた。 私は今、記者の仕事がしたい。仕事に熱中して熱狂して、そしていつかそれをやり遂げたい。富士山より何千倍も高い山だろう。だからやる価値がある。そう信じている。
5日後に連絡が来た。不採用だった。
生き方が分からない。
なんつってな。
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