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第57回 四国遍路編24
8月2日 四国最南端へ 中編
昼過ぎて太陽はやわらかくなる。矢印の無くなった熱が淀んで鳥がぴいぴいいっている。午後。俺はまだまだ歩く。
遍路道が載っているお遍路さん御用達の地図を見ながら歩いている。このまま先に行くと砂浜を歩いてショートカットするコースがあるようだ。砂浜を行く遍路。絵になるじゃないか。そういうの結構好き。これはやっとかなきゃいけないね。るんるん。 と思ったのだが、地図の場所に着くとそこはまた海水浴場だった。人がいっぱい。喫茶店があって、そこでランチを食う。食事が終わると、「サービスしますよ。ティーかコーヒーどっちがいいですか?」嬉しいなあ。コーヒーを貰う。砂浜を横切る際は海と浜の間の砂が固くなっているところを歩けば疲れないよ、と教えてもらった。
ビーチにはサーファーとか夏休みファミリーがいっぱい。皆マリンな服装なのに俺だけマウンテンな服装。これは恥ずかしい。しまった。遠回りして国道から行けばよかった。いや意地で進むぞ。水着のファミリーを横目に進む俺。めちゃめちゃ見られる俺。裸足になって足の裏からいろいろを感じながら歩いた。結構な距離だった。2キロくらい。
そして国道27号線に戻ってまたしばらく歩いていると、後ろからかしゃん、かしゃん、かしゃん、かしゃん、かしゃん、と聞こえる。いきなり「こんにちは」と言われ、抜かれた。紺色のものが俺の横をすり抜ける。それは坊さんだった。坊さんは紺色の袈裟を着て、右手になんか金色のわっかが4つくらいついたごっつい杖をついていて、丸いでかい笠を深く被り、あご紐をきっちり締めてへの字口。紺色の背中に、白字で、達筆で、
『高野山』
ぬはー。本物だー。こえー。しかも歩くの早えー。かしゃん、かしゃん、かしゃん、かしゃん、かしゃん、かしゃん、かしゃん、かしゃん、ってもう向こう。紺色の点。こえー。すごいものを見た。写真撮らなきゃ。
窪津っていう小さな小さな港町っていうか集落っていうか部落を横切る。何も無い村だった。空気が乾いてコンクリートに日々を入れていた。ヒビを、入れていた。割れたコンクリートの港。さびれた村。
津呂っていうこれまた集落っていうか部落に行くと、おじさんがあばら小屋を建てていた。話しかけられる。お遍路さんが無料で泊まれる様な宿泊所を手作りで作っているのだそうだ。ここに泊まっていきなさい。と言われる。はい。と言う。もう、親切に対する懸念は一切無し。ちょっと問題だね。荷物を置かせてもらって、身軽になって足摺岬へ向かう。四国最南端足摺岬の近くに第38番札所金剛福寺はあるのだ。
誰もいない田舎道を歩き、金剛福寺に着く。石段にでっかいマムシがとぐろを巻いていた。それを見て、うきゃ、と俺は言った。足摺岬は結構観光名所らしく、バスが止まっていて、おばちゃんツアーがいっぱいいた。ジョン万次郎のでっかい像があった。ジョンはすげえ。14歳で無人島暮らしとかしたんだよ。納経をすると、お寺の方に、「これ使ってください」と手ぬぐいを貰う。
閉まる寸前の足摺岬の観光レストランで飯を食った。明日の朝飯用におにぎりを作ってもらった。外に出ると陽が傾いて暗くなってきていた。一期一会の一日ももうすぐ終わる。足摺岬には遊歩道があって、足摺七不思議なるものがあった。「お亀さーん!!」、と呼ぶとオオウミガメが寄ってくるという崖とか。かなり怪しいのばっかり。全部で21不思議あるのだが、いいかげんなものばかりで途中で見物するのが面倒くさくなってしまう。 http://www.ashizuri.co.jp/doc/kanko/fushigi.html
崖から身を乗り出して海を見た。辺りには街灯も無いからどんどん暗くなっていくのだった。俺は今日という日にどれくらい意味があったのか。それを測ろうとするが、よく分からなかった。何人と出逢った? いくつ親切を受けた? もう数えていない。俺は何をしているのだ? 波がざざと言って返す。今日はもう終わりか? いや、今日は荷物を取りに戻らなければならない。戻ってあのあばら屋で今日は寝るのだろう。仕事というか、義務があるということが何故か安心に繋がる。長い一日だ。重くて、退屈で、ブルージーで、暑い。
長い夏の一日はまだ終わらないのだ。
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