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第58回 四国遍路編25
8月2日 四国最南端へ 後編
すてすてと来た道を戻る。誰もいない道は街灯がなくて真っ暗。急いであばら屋へ戻った。戻るとさっきのあばら屋を作っていたおじさんと、がりがりに痩せた人と、なんと、あの追い抜かれた坊さんが居た。 「おお、お帰りなさい」とおじさんが言う。「あ、ただいまです」と俺が当たり前のように言う。
「今日はここで寝なさい。無料やけど、一応宿帳書いてな。書きたくなかったらかかなくてもいいからな。今日のお客さんは3人や」 痩せた人と坊さんもお遍路さんで、ここに泊めて頂くのだそうだ。ご近所だという夫妻とおばあちゃんが缶ビールを持ってきて現れる。「私達の気持ちです。お接待なのでどうぞ頂いてください」酒盛りが始まる。
@痩せた人
「東京で仕事なくなってさ。やること無いから歩こうと思って四国に来たんだよ。5万くらいしか持ってきてなくてすぐに無くなって。3日飯食ってなかったんだけどさっきこのおじさんにおにぎり頂いてさ。旨いよね。米って。今まで飯はね。パンの耳ばっかり食ってたよ。貰いに行くんだよ。電話ボックスを探してタウンページでパン屋探して片っ端からパンの耳下さいって言いに行く。結構くれるよ。断られることも多いけどね。煙草は拾ったやつしか吸わない。下見ながら歩いていたら煙草って結構拾うんだよ。ずーっと歩いていたら足摺岬って自殺の名所だぁとか思ってきてね。そしたらここのおじさんに声かけられて…宮古島行ったことあるよ。昔バブルの頃にあそこのゴルフ場を出稼ぎで作りに行ったよ。毎日前浜で泳いでいたよ。あそこももうだいぶ変わったんだろうなあ。え?変わってない?そうなんだ。懐かしいなあ」
@坊さん
「…九州で取れたキャベツを、トラックに積んで北海道まで行ってそこで「北海道直送」と書かれているダンボールに詰め替えて東京で売るですよ。そしたら値段が倍から違う。だいたい4月とかに北海道云々っていって出荷されてるもんは全部偽物です。だいたい4月なんて向こうはまだ雪が残ってるからキャベツは作れない。そういうもんなんや。流通は。…高野山は宗教都市やから、寺の税金とか観光で成り立っとるから、交通違反しても、どこどこの寺の何々です、って言えば飲酒運転くらいならなんとかなる。僕は全然下っ端やからそんなんないねんけどね。…この袈裟が5万くらい。杖が8万します。20万超えるやつもありますよ。これは安いほうですね。もっとごっついのありますよ」
坊さんはビールを3本飲んだ。
「お坊さんもお酒飲まはるんですかぁ?」というおばちゃんの問いに、「宗派によるんですよ」と、ごにょごにょな顔をして坊さんは言っていた。
@あばら屋オーナーのおっさん
「借金を2億せおったんや。それでここらへんで屋台引いてラーメン売ったわ。3年くらいな。今は会社起こせてまた社長やってるんやけどな。ほんで世知辛い世の中やしそろそろ恩返ししなきゃいけない年やな思うて、このあばら屋を建てることにしたんや。昔刑務所入ってた時にな、人恋しくて寂しくてな。窓の外に来るハトが可愛くてなぁ。飯を少し残して服に入れといて、窓からやるんやけどな。看守に見つかったら怒られるからばれないようにやるんや、ついばむ姿が愛おしくてなあ…。…おととい14歳っていう子供が来てな。なんかで両親が亡くなって、叔父さんのとこに預けられたんやって。そんでそのおじさんが、1万円と四国に行く船のチケットだけ渡して、四国遍路を廻ってこい。八十八箇所廻ってきたら面倒を見てやる。って言って、そのままここにたどり着いた言うとったわ。畑のトマトとか食いながらここまで来たんやって…ここらへんはな、もうシーズンは過ぎたけどな、7月の中旬はここいらへんは源氏蛍がぐわーっって来るんやで。けっこうな光景やで。もうちょっと早く来ればよかったわ」
オーナー「お前を俺が雇うから。ちゃんと給料も払うから。明日からこのあばら屋を建てるのを手伝ってくれんか?」 痩せた人「本当ですか?いいんですか?」 オーナー「ああ、かまんよ」 痩せた人「ありがとうございます」
俺は蛍のことを想像した。この真っ暗な掘っ立て小屋に、タールみたいな夜に、それを照らす、親切とか、人情とかいう類の、ほのかなほのかな、一つ一つは小さい灯りだけれども、なんかそういうのを。俺は缶ビールをすぐに飲み干した、もう一杯飲むか?とおじちゃんが聞いたが、俺は「いいです。ありがとうございます」と言った。
11時を過ぎておじちゃんたちは家へ帰って行った。
寝た。夜に喉が渇いた。ここらへんには水道が通っていないため、自動販売機で購入しなければならないのだが、痩せた人が無一文だし、自販機で飲み物を買う音で起こしてしまうだろう、と思って我慢した。
夜がくるくるくるくるといって回っている。俺は四国の端っこで眠りに落っこちていく。蛙が鳴いている。蛾が飛んでいる。ベトナムで象が死んだ。
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