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第61回 四国遍路編26
8月3日 またあの海。水平線。
起きる。朝。 坊さんが、「兄ちゃん、コーヒー飲むか? 」と言い、俺は、「はい」 缶コーヒーを飲む。 痩せた人は、あばら屋オーナーにお世話になるようで。塞翁が馬。
塞翁が馬。
人生とはこんなものなのだろう。愛も糞も運も涙も行き当たりばったりで転がっていて。なんてことを朝っぱらから思う。支度して出発する。
そしたら早速道に迷って、道を聞こうと思って民家をたずねたら、スイカをご馳走になり、そのまま1時間話しこみ、昼飯までご馳走になる。
溢れている親切。
喫茶店に入ると、ここいらの歴史を延々と喋るおじさんに会う。小さな港町に流れる小さな川で、アヒルを見つけて5分くらい眺めている。写真を撮る。
コースの関係で、2日前と同じ道を逆に歩いている。下ノ加江から山側に進んで高知県を越える予定なのである。2日前に通った海岸を歩き、2日前に入った喫茶店で食事をし、2日前に寝た、あのサンジのお兄さんに連れてきてもらった海水浴場に着いて。まだ午後4時。西日が横に覗き込んで照らす海で、3人の不細工な女子高生が泳いでいた。
田舎の夏。
場末の海。
何処でも変わらない陽光。
白い陽光。
荷物を置いて靴を脱ぎ捨て、ズボンをまくり、海に入ってみる。ぬるい黒潮。俺は水平線を見やる。もう何回目だ? この夏に水平線を見やるのは。137億年変わらない海。 もう何度目だ?
もう何度目だ? こんな瞬瀬に立つのは。
塩波シャーベット、さざんで。透明の。白砂。凍って。陽光。走って青空。 浜百合の小百合。翻った昼顔。涼風吹いてビーチ。木陰で休んで。 水色の。絵の具の澄んだ大洋。粉みじん砂山。黄色のシャワー。 いかり肩入道雲へノートを持っていく。砂漠ではあんなに怒っていたのに。 黄色のシャワー。 塩波シャーベット。透明の泡がゆっくり。白砂氷粉散らして。灼熱の風がゆっくり。 深青で重たく。今にも落っこちそうな詰め込んだ青空。
何度も何度も水平線を見ている。未だに俺は見ている。見ているとそのうち落ちていく。夕陽は腐った卵の黄身のようにドロドロして垂れる。そして夜がやってくるのだ。
そして、俺は、それを見ているのだ。
また1日が終わった。
鏡を見て、米神に日焼けで眼鏡の痕がついているのを見つけ、ちょっとだけ凹む。
2日前に居た場所に今、2日ぶりにいる。当たり前だが、2日前と同じ風景。違うのは俺の納経帳に一つ納経印が増えているということだけ。別にあの兄さんにもう一度会いたいとは思わないが、なんだか思いに耽ってしまう。2度と出会わない人々とすれ違って進んでいる。空を見ると白い月が出ていた。
俺は洗濯を始めた。この旅はいつまで続くのだろうか。
夜の波がざあざあいって四国を洗っていた。
白い月が出ていた。
俺は月の下で洗濯をしていた。
辺りには誰もいなかった。
何も無かった。
また、何も無かった。
まだ? 何も無かった。
塞翁が馬。
俺はパンツを干していた。
http://maps.google.co.jp/?ll=32.862863,132.952037&spn=0.008021,0.017037 ↑ここらへんで。
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