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第62回 四国遍路編27
8月4日 前編
時よ止まれ。お前は美しい。
朝、トイレでぐうぐう寝ていると、外でがさごそ音がして、いきなり鍵を開けられる。掃除のおばちゃんだった。 怒られる。 だが、「ごめんなさい。掃除、手伝いますよ」というと仲良くなれた。世間話をして。夏の午前。
荷物をまとめて出発。今日は山越え。ハイキングだな。喫茶店で食事を取り、坂を上っていく。山の中は携帯が圏外で繋がらない。誰もいない。車も通らない。山道。 ひたすら山道。 誰もいない県道。
途中で野糞をしたり、蝮にびびったり、楽しくなったりしながらもさくさく上っていくと小さな集落に着いた。
http://maps.google.co.jp/?ll=32.905605,132.861249&spn=0.008017,0.017037
ここらへん。
沢があった。そこでじいさんばあさんが5人ほど涼んでいた。俺が「こんにちは」と挨拶すると、「あらまあ、お遍路さん、休んで行ってください」と椅子を差し出された。甘えて座る。暑いだろう、とか。上りやったからきついやろ、とか。どこで寝てんの、とか。いつもの会話。
小柄なおじいに、「よかったらうちに泊まっていってくれんか?」と言われた。まだ午後3時くらいで、陽も高かったのだが、断る理由もないので、これまた甘える。家に案内された。「昨日そこの川で獲ったうなぎをご馳走しちゃるからな」と言われ、テンションがあがる。
おじいの家は、昔話に出てきそうな古い古い家で、土間があったり縁側があったりだったけど、一目で金持ちだと分かる広さ。おばあが出迎えてくれる。「こいつが俺のくそばばあや」とおじいがおばあを紹介する。5年位前の福山雅治のポスターが貼られた部屋に案内されて、ここで寝てくれと言われた。久々の畳。柱時計がこつこつ鳴っている。遠くで蝉の声。
庭は、放し飼いの軍鶏でいっぱいいた。 軍鶏。 ひよこがぴいぴい。おじいは趣味で闘鶏のブリーダーをしているのだそうだ。数十頭の軍鶏が50坪くらいの庭を走り回っている様を見るのは圧巻だった。それを眺めながら世間話をする。今までここに泊まったお遍路さんの話とか。ここからのルートのこととか。俺は学生だという話とか。
土間で食事。
うなぎが丸ごと煮られたやつを頂く。グロい。だが、無茶苦茶旨い。骨つきのうなぎなんて初めての経験。10センチくらいの楕円の頭がどかーんとあるので、「おじい、この頭食えるの?」と聞くと、「食える。頭が一番旨いんやで」と言う、のだが、明らかに硬そうなのだった。まあそういうなら、と思いっきり口にほおばり、噛み砕こうとしたのだが、やはり硬くて無理だった。俺が、「おじい、硬くて噛めないよ」と言うと、「なら、食うな」 といきなり怒鳴られる。
「お前は酒は飲めるのか?」と聞かれ、「飲める」と言うと、「俺はもうあんまり飲んだらあかんのや。お前が俺の代わりに酒を飲め。ビール一本だけ飲ませちゃるわ。特別やで」と言って、アサヒスーパードライ。汗をかいた後の酒は旨い。「うめえうめえ」と俺が飲んでいると、「おい、そこの冷蔵庫から氷とサイダーを取れ」とおじいが言う。言われたとおりにすると、「グラスに氷を入れて、サイダーを半分くらい注げ」と言う。これまた言われたとおりにすると、おじいは棚の裏から怪しげな瓶を取り出して、そのグラスに並々と不思議な液体を注ぐのだった。そして、俺に、「飲め」と言った。 どぶろくやん。 臭い酒だった。一口飲んで、「おじい、これ臭いよ」と言うと、「なら飲むな!」と怒鳴られた。そして、「臭いのが、ええんやで」と呟いた。
ちょっと悲しくなった。 おじいの好意を受け止められないのは、 俺が糞みたいに若いからなのだろう。
んは。 臭かったんだもん。
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