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第68回 四国遍路編29
8月5日 懸命
朝、起きる。庭に出るとじいが50箱くらいの鳥箱を並べていて、一箱ずつにエサをやっていた。 鳥箱の中を見るとメジロが入っていた。メジロを飼っているのだ。 「かわいいやろ」、とじいが言う。ちゅんちゅん。 犯罪じゃん。 ちゅんちゅん。 「観賞用や」 顔を洗って荷支度をして、軍鶏の赤い卵を食べて、おばあの作ってくれたなすびの味噌汁を飲み、礼を言って御札を渡し、外へ出ると、また遍路。俺はまだまだ歩く。 じいは田舎の名士だったな。いい家だった。 感謝。 見上げると青空。 おら、まだ夏だ。 「いきいきみはら会」という無料休憩所で休んで、中筋川ダムというでっかいダムを超えて、国道56号線に合流。第39番札所延光寺は行基が作った寺なのだそう。慣れた手つきで納経して、近くの食堂で中華丼を食う。その店にはスラムダンクが全巻揃っていて、山王戦を読破。 安西先生がガッツポーズをとるところが好き。スラムダンクで元気をもらう。また歩き出す。 地図を見て思う。 もうすぐ土佐が終わる。 高知県。室戸岬で熱射病になりそうになりつつもエレカシを聴きながら歩いて。大師堂に泊まったり、桂浜で寝たり、石の竜馬にびびったり、車に乗せてもらったり、民宿でカツオ食ったり、釜風呂に入ったり、四万十川はびかびか光っていたな。足摺は暗かったな。そんなことを思いだして。一過性で戻らない旅。俺の高知県2003夏。ありがとうさようなら。たまには思い出すよってにな。 国道沿いにアイスクリン屋があった。おそらくここで高知名物アイスクリンも食べ終わりだろうと思って買って食った。ミルキー&クリーミーテイスト。グッドでヤミー。売り子のおばちゃんとちょっとだけお話。 「また高知来てや」 「来ますよ」 時間が震える。
愛媛県一本松町に入った。 少し行くと中華料理屋。八宝菜定食を食う。ここらへんに野宿できるところは無いかと店のおばちゃんに聞くと、少し行ったところに一本松温泉という温泉があってそこの駐車場で寝ているお遍路さんをよく見かけるのだという。 おーし。 今日は温泉だ。 閉まる寸前の温泉に滑り込みで入った。いい湯。隣のロッカーの客からお接待として1000円貰う。ありがとうございます。 駐車場のベンチを2つ向かい合わせて即席ベッドを作ってそこで横になった。日記を書いて、友人にメールをして、夜空を見る。
たとえば、未来に、そんなに遠くないかもしれない、未来に、
死が来る。
自分の死を迎えるときが来る。必ず来る。
俺はそのときにがははと笑いたい。何故か知らないが笑えなきゃいけない気がする。
だからそのときのために懸命でいなきゃいけない。何故か知らないが懸命でいなきゃいけない気がする。
夜の闇に脳髄を握られながら思う。
はたして俺は今、懸命なのだろうか? 頬で固いベンチを感じながら。シャンプーの香のする頭を夜風が撫でて。
疲れた体は無責任に夢の中へ落ちる。 また一日が終わった。 取るに足らない小さな一日が。 ガラス玉みたいに。
夜が笑っているのだけは感じられるのだが。
はたして、俺は今、懸命か?
はたして。
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