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第70回 1泊6日の北海道旅行 稚内編
17時ごろに稚内に着いた。 すさまじく寒い。 山田とマルクは、古い木造の駅の改札を抜け、震えながらわが国最北端の街の空気を吸う。すると胸には果物のような気分が満ちてきた。 山田はその果物は西瓜だなと思った。 マルクその果物はアボカドだなと思った。 北風がぴいと吹いて新聞紙が路上を滑っていくのが2人の視界に入った。そこは完全な冬だった。古い商店街がよよいと建って旅行客を歓迎していた。ひび割れたアスファルト。冷たい街。堕ちてくる空。
8時間前。2人は札幌のカラオケ屋に居た。金の無い2人はカラオケのフリータイムで朝まで過ごそうと考えたのだ。料金節約のため飲食物は頼まず、寝るわけでもなく、2人は朝まで歌を歌った。エレカシやイエモンを謡った。 せっかく北海道に居るんだから、とマルクは松山千春とGLAYを、歌詞も知らないくせに熱唱していた。そうするとなぜか3割増しの速さで朝になったのだった。2人はもう時計的に6時間も歌い合っていたことに気づく。もうそろそろ始発の出る時間なのだった。 山田が投げやりに4回目の『踊るダメ人間』を歌い終えたとき、マルクは紫煙を口から吐き出し、天井を見ながら言った。「…一番、上まで行かね?」。「上?北ってこと?」と山田が聞き返して、「そうそう」、とマルクが応えた。「せっかくだから端っこ行こう」。「そだな」山田が眠そうに瞼を擦りながら言って2人は稚内を目指すことになったのだった。日本最北端に、2人は行く。
駅で切符を買って電車に乗る。札幌までは旭川乗換えで12時間くらいかかった。車内で2人はとろろと眠りこけた。眠りこけた。とろろと。 そして17時ごろに稚内に着いたのだ。 そしてすさまじく寒い。
へとへとで震えながら2人は街を歩く。札幌よりも5℃ほど気温が低い。「これからどうしようか茶でもしながら話そうぜ」「ああ」という会話を交わし、2人は駅前の小さな喫茶店に入った。 小奇麗な喫茶店だった。茶色い壁に白い絵が映えていた。生けたての蘭がはにかんでいた。カウンターに先客が1人。パンチパーマのおっさんが座って煙草を呑んでいた。2人は奥の席に腰掛け、コーヒーを頼み、駅で貰ってきた観光パンフレットを広げる。「とりあえず泊まるとこ決めたほうがいいよなもう夜だし」「だよな。流石に宿に泊まろう。布団に寝ないと、俺、死ぬ」「そうだよな。俺も死ぬ」「俺のほうが死ぬ」「いいや。俺のほうが死ぬよ」「なんだよ俺だよ」「じゃあお前でいいよ」と言ってマルクはお洒落な木枠の窓から外を見た。稚内駅前の寂れたタクシー乗り場だった。ひび割れたコンクリートから灰色のあれが渦を巻いて冷たく冷たく流れ出し、冷たく冷たく、冷たくなっているのを見ていた。
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