第79回 四国遍路編36

 まだまだ8月8日

 22日目


にやたびカルト 第2回 長命水のいわれ 下


 頂上の石を、じいが動かすと、

 なんと石の裏に、弘法大師の彫刻があったのじゃ。

 そしてその退かした石のあった場所から水が湧き出しよった。

 じいがしゃがんでその水を飲んでみると、これが旨い。

 じいは感動して、地主を振り返った。

 あまりの出来事に呆然としていた地主は、じいにこう言ったそうな。

 「…あなたにこの山を売りますよ」



 じいは、この山の頂上に祠を建てた。

 見つけた仏を祭るためじゃ。

 そして、湧き出た水をたくさんの人に飲んでもらおうと考えた。

 水を運べるように、山に道を作ることにしたんじゃ。

 ただ、全く人の入っていない山じゃった。道を拓く作業はとても大変なのは目に見えておる。

 じいの仕事仲間は山を見て、この仕事を一人でやるとなると3年はかかる、と言ったそうな。

 じいはどんな難儀な作業でも成し遂げようと、道作りをはじめた。

 そしたらなんと、拓く拓く。

 3年かかるという仕事をじいは1ヶ月で仕上げてしまったんじゃ。

 これにはじいの知り合いの土木業者も驚いた。

 じいはこの奇跡をお大師様ののお導きだと考えた。




 じいは湧き水に「長命水」、と名づけた。

 村で、湧き水は大評判じゃった。飛ぶように売れる。

 じいは長命水をもっと広めるために、第41番札所龍光寺の門前にうどん屋を構えることにしたのじゃ。

 長命水でうどんを作って売ろうと考えたのじゃ。

 それがこの店なのじゃ。



 打ち付ける雨が、台風でほとんど客の居ない店のガラス窓をしゃわしゃわ鳴らしている。このうどん屋がまるで荒れ狂う海を漂う難破船になってしまったかのような錯覚を覚える。陸にはたどり着けるのだろうか。この間までのうだるような暑さを押しつぶすような湿気と低気圧。俺は「長命水」で淹れたというコーヒーを啜りながら、じいの話にもう2時間ほど頷き続けていた。じいは途中、同じ話を繰り返したり聞き取れない方言を叫んだりしながら、この店のいわれを自慢げに話し続ける。土砂降りの中、また外に出て歩くのも億劫だし、ちょっと面白い話のような気がしたので聞き入っていたのだが、さすがに2時間も経つと、疲れてくる。
 完全に弘法大師信者のじいは、恍惚とした表情で、口の端に細かい泡を溜めていた。終わらないな、と思った俺はトイレを借り、出てきてすぐに、「もう行きます」と言った。するとじいは言った。
 「…私はね、お遍路さんをしている若い人に会うといつも言ってるんですよ。総理大臣になってください。お遍路を経験した人が総理大臣になるべきなんですよ。今は荷物を担いで歩いているでしょ。将来はこの国を背負って、立ってください。お願いです」


 「はい。わかりました。任せちゃってください」
 と、俺は答えた。


 そう、
 あのときから、俺は日本を背負っている。



 空いたペットボトルに「長命水」をたっぷり入れてもらい、

 外へ出たら、風は弱まって雨は小降りになっていた。

 台風の中心は過ぎたようだ。




 ネットで検索するとじいのことに関する記述が少し出てくる。いろんな人に同じ話をしているようだ。じいについて眉唾な意見を持っている人がちょくちょくいて、ちょっと面白い。

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